全力疾走

□好意+悪アガキ=譲レナイ気持チ
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折角のデートに思わぬ邪魔が入ったが、名無しさんの手前断ることもできず結局全員で乗り物に乗った。


元気にはしゃぐ名無しさんや丸井の弟たちに着いていけず、何回目かのジェットコースターで気分の悪くなった俺は丸井の付き添いのもと、ベンチで休憩しちょった。

目の上に乗せたタオルが冷たくて気持ち良い。





「……気持ち悪い」

「ったく、だらしねえなあお前」

「俺はお前さんらとは違って繊細なんじゃ」

「ま、確かにアイツら元気過ぎるだろぃ」





ちょうど目の前を通りすぎたジェットコースター。そこに名無しさんや弟の姿を見つけた丸井は無意識なんか口元を緩ませる。





「…なあ丸井」

「ん?」

「なんで遊園地に来た。俺と名無しさんがいるって知っとったはずじゃろ」





タオルをずらし片目で丸井を見つめれば、丸井は逃げるように俺から視線を逸らした。





「…弟たちが遊園地に来たがったんだよ。俺は子守り」

「それだけか?」

「それ以外に何があるってんだよ」





丸井はそう言った。名無しさんのために来たのではないということを言外に伝える言い方で。


だけど俺には分かった。確かにコイツは面倒見が良いが、遊園地なんて他にいくらでもある。

それでもここに来たんはやっぱり名無しさんがいたから。俺と名無しさんがデートしていることを知っていたから。



…ああ、知っとる。分かっとるよ。


丸井が自分でも知らない内に名無しさんに惹かれ始めとることなんて。理由なんてわからん。いやきっと理由なんてないんじゃ。

俺なんかが好きになった奴だ。丸井が好きになるのも当然ともいえるぜよ。


そしてどう足掻いても名無しさんが丸井しか見ないことも。俺が入る隙なんてないことも。それこそ本人たちよりも第三者の俺の方がよう知っとる。


それでも悪あがきくらいさせてくれ。いつから、なんてわからん。俺やって最初はお気に入りくらいやった。

それがいつのまにか好いとるんじゃ。


名無しさんじゃなきゃ、ダメなんじゃ。





「なあ丸井。言うておくが俺は本気ぜよ」

「だからっ、」

「俺はお前さんにも譲りとうない」

「……そうかよ」





丸井の言葉を遮るように吐き出した言葉には多分珍しいくらい感情が込められていたと思う。


タオルを掴んでいた手に自然と力が入り、それによって搾り出た水滴が顔に垂れた。





「冷たいのう…」

「………」





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