全力疾走
□遊園地+偶然=必然
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「あー、部活がない休みの日ってのも暇だよな」
リビングのソファを陣取り、対して面白くもないテレビをただ何となく眺める中、俺は横目で時計を見た。
「アイツ、今頃仁王と遊んでんのかな」
仁王が言っていた。今日名無しとデートに行くと。
"遠慮はせん"
そう断言をされた。
アイツが名無しを気に入ってるのは知ってたけど、正直そこまで本気だとは思ってなかったからあの言葉を言われたときにはそりゃ驚いたぜ。
遠慮はせんって言われても、俺そんな気ねえし。今日だって別に部活が無い日だから何をしようと仁王の自由だ。
だけど、なぜか心が落ち着かない。
アイツ、俺のことが好きなんじゃねえのかよ。なんで仁王なんかと…。
「兄ちゃん、…なあ兄ちゃん!!」
「お、おう。どうした?」
相当ボーッとしてたのか、気付いたら弟たちが俺の服を引っ張りながら怪訝そうに顔を覗き込んでいた。
俺はそんな弟たちを誤魔化すように笑い掛けながら頭を撫でる。
今日は両親二人が歳も考えずにデート行ってくるとかうきうき出掛けちまって、家には俺と弟が二人。
「暇だよ!どっか連れてって!」
「はあ?どっか連れてってって言われてもな」
「俺さ俺さ、遊園地行きたい!」
「俺も!」
「……遊園地か、」
そういや二人が行くのも遊園地だったよな…
「…分かった。準備してこい」
「いやったああ!」
そんなこんなで俺も遊園地に行くことになった。仁王や名無しと同じ場所の。決して弟達をだしに使ったわけじゃないし二人が気になったからでもない。
楽しそうに会話をする弟たちの後ろを歩き、遊園地内をうろついてるとすぐに二人は見つかった。名無しはともかく仁王の髪色は目立つからな。
仁王は俺の家に遊びに来たこともあるから弟たちも覚えている。案の定、仁王を見つけて走って行っちまった。
「あー!手品の兄ちゃんだ!」
「本当だ!!手品の兄ちゃん!」
「おまんらは…丸井の弟たちか?」
「そうだよ!」
「久しぶり手品の兄ちゃん!」
「へえ!ブン太君の弟ですか!可愛い!」
「姉ちゃん誰?」
「手品の兄ちゃんの彼女?」
「ち、違いますよ!私が好きなのはブン太くんです!!」
「おい、弟たちの前でなに言ってんだよ」
顔を赤らめながら弟たちにとんでもねえことを言い放つ名無しに、ついつい小さくではあるが出てしまった呆れた声。
それに目敏く反応したのは名無しではなく仁王だった。
俺と目が合うと仁王は眉間に皺を寄せる。なんで来たんだと言わんばかりの視線。
その視線は直ぐに逸らされ、仁王は軽く息を吐いてから不適な笑みを作り俺の名前を呼んだ。
「偶然じゃな、ブンちゃん」
「え!?」
その言葉に名無しは仁王を見て、それから仁王の目線の先、俺を見た。
「ブ、ブン太くん!」
嬉しそうに破顔させる名無しはさっきも思ったけど、いつもと雰囲気が違うように思えた。
普段学校でしか会わねえから制服姿しか見てなかったけど。
私服は女らしい、少しふわふわした服。髪も巻いてるのかくるくるしてて、中々に俺好み。
「ブン太くん、偶然ですね!」
「偶然、な…」
名無しは隣に仁王などいなかったかのように真っ直ぐに俺のところに駆けてくる。
仁王は何かを呟きこっちを見てきたが、俺はその姿を見て訳の分からない優越感を覚えた。
「どうしてここに?」
「見りゃわかんだろい。弟たちのおもりだよ」
「部活のない休みの日は弟くんたちと遊んであげてるんですね!なんて素敵なお兄さん」
「おい、なんでそうなる」
「そうだ!兄ちゃんは俺たちの自慢の兄ちゃんなんだ!」
「ふふ、分かります」
優しく笑いかけながら自慢げに俺の話をする弟たちの頭を撫でる名無しの姿はなんだか様になっていた。
コイツ、保育士とか向いてそうだよな。
「そうだ、どうせならみんなで遊びませんか?きっと楽しいですよ?」
「賛成!いいよな、兄ちゃん!!」
名無しの言葉に弟たちが賛成する。俺はちらりと仁王を見たが、仁王は諦めたように肩を竦めるだけで何も言わない。
結局俺たち5人で遊ぶことになった。
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