全力疾走
□雨+傘=近ヅク距離
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「くっそー、やっちまったぜぃ」
今日の空は雨模様、俺の心も雨模様。
なんつって。
朝寝坊した俺は部活に遅刻しそうになって「今日は午後から雨降るから傘持ってきなさい!」って言ってた母さんに耳も貸さず家を飛び出してきたんだ。
こんなことならキチンと言うこと聞くべきだったぜぃ。
「どーすっかなあ」
最悪ブレザーを雨除けにして走って帰るしかねえよな。つうかそれしか選択肢ないし。
「あ、ブン太くん!」
意を決して走り出そうとしたとき、嬉しそうに俺の名を呼ぶ声に引き止められた。声の主は振り向かなくたって分かる。
「…名無しかよぃ」
「はい名無しです!今帰りですか?」
「雨で部活がねえからな」
「じゃあ一緒に帰りましょう!うわあブン太くんと一緒に帰れるなんて今日はついてるなあ」
おれは全くついてねえけどな。
そんな呟きも嬉しそうに傘を差す名無しには届かなかった。つうか俺傘持ってねえから。
いつまでもその場から動かない俺を見て名無しは首を傾げ、それから合点がいったのか大きく頷いた。
「傘忘れちゃったんですね」
「…だったらなんだよぃ」
「じゃあ一緒に入りましょう」
そう言って傘を俺の方に傾けてくる名無しに思わず開いた口が塞がらなくなった。
「お前、分かってんのか?」
「はい?」
「………もういい」
考えた末に俺は名無しの傘に入って帰ることにした。どうやらコイツは変な考えとかじゃなく純粋に傘に入れてくれるみてえだし。出来るなら俺も濡れずに帰りてえ。
身長差的に傘は俺が持つことになって。そこからは一方的に休むこともなく話し続ける名無しの話に適当に相づちを打つだけだった。
「それでですね!…あ、そう言えば」
「あ?」
「これって相合い傘ですよね!」
「いまさらかよぃ」
本当にコイツの相手すんの疲れる。
部活の帰りよりも疲れてる気がする体を引きずりながら差し掛かった十字路を気にせずに真っ直ぐ進もうとしたとき、名無しが立ち止まった。
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