全力疾走
□運動+期待=声援
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「丸井これから部活か?頑張れよ!」
「丸井くん、今度の試合応援しにいきますね!」
「今年も期待してるぜ丸井!」
部活に行く道々でかけられる言葉。
俺は手をあげたり返事をしたり会釈だけだったりをしながら歩いてた。
俺ら立海大テニス部は全国2連覇を成している強豪だ。試合には俺達のファンクラブの奴らだけじゃなく男だって見にくる。
他の学校の奴らも偵察に来てたりするな。
別に応援されるのは嫌じゃねえし、ファンがいることだって男なんだから嬉しくないわけがねえ。
だけど練習に集中出来ないくらいの黄色い声援。正直あれは勘弁してほしい。
つうかあんな金切り声あげられて集中出来る奴っているのかよぃ。…いや、まあ幸村くんなら出来るかもしれねえけど。
「あ、ブン太くうううん!」
「げ、名無し…!?」
道の先から笑顔で俺の名前を叫びながら走ってくる名無しに思わず眉を顰めた。今日は一度も会ってなかったからつい油断してたぜぃ。
「これから部活ですか?」
「まあな」
「そうですか、頑張ってくださいね!」
「お、おう」
「それじゃまた明日。大好きですブン太くん!」
「へいへい。んじゃな」
名無しからの告白も最初こそは戸惑ったけど流石に3年も続けば慣れる。
適当にあしらっても、それでもめげないで毎日のように言い続けてくるコイツの神経は相当図太いんじゃねえかとよく思う。
とにかく、ペコリと軽く頭を下げて小走りで去っていく名無しの後ろ姿を何となく見届けてから再びもう目と鼻の先にある部室に向かった。
…よく考えてみればよ、アイツって散々俺に好き好き言って付きまとってくるくせに、3年間一度も部活とか試合を見に来たことってねえよな。
「普通、好きなら応援くらいしに来るもんじゃねえの?」
呟きながら感じた微かな違和感。つうか、何でこんなこと考えてんだ俺。別にアイツのことなんてどうでもいいだろぃ。
「ちーす…がっ!」
「あ…、丸井先輩」
「……ようし赤也、覚悟はいいか?」
「すんませんすんませんすんません!丸井先輩っ!わざとじゃないンすよ!」
「問答無用!」
「いぎゃぁああああ!」
俺が部室に入ろうとした瞬間に扉を開けて出てきた赤也。目の前に立ってた俺は必然的に顔面と扉がくっ付いて。
わざとじゃねえにしろ俺の顔面を傷付けた罪は重い。
渾身の力を込めてお返しに顔面を鷲掴みにしてやってる時には、もう感じていた微かな違和感を忘れていた。
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