全力疾走

□引退+虚無感=寂シサ
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俺らの夏が終わった。
準優勝という形で幕を閉じた。


三年の俺らは直ぐにではないにしろ徐々に部活には行かなくなる。これからは赤也が部長として引っ張っていくんだ。


そういやアイツ泣いてたな。あんなんで大丈夫かよぃ?





「ま、赤也だから平気か」





とにかく急にやることがなくなって手持ち無沙汰になった俺はじっとしてられなくて散歩という形で近所をブラブラしていた。





「ブン太くうううん!夏休みに会えるなんてなんて偶然!もう運命ですね!」

「……んなわけねえだろぃ」

「どうかしたんですか?いつもよりも突っ込みに力がないですよ」





力がないってなんだよ、とは思いつつも名無しの言う通りだからなんも言い返せねえ。

キョトンとした顔で俺を見つめる姿に何故か俺は安心感を感じた。





「お前ってさ、初めて会ったときから変わんねえよな」





俺は、俺たちは変わっていく。良くも悪くも少しずつ。それが成長ってもんだし否定する気はねえ。


テニスもいつだってできる。アイツらとだってやろうと思えば。今までみたいに、とはいかないかもしんねえけど、それでもやっぱりテニスはできる。

だけど、あんなに必死にすることはきっともうない。強さを求めて、勝利を望んでただがむしゃらにテニスだけを考えることはない。



心に穴があいたような、そんな感覚。
大切なものを失ってしまった気がした。





「きっとブン太くんは寂しいんですね」





寂しい?
あぁそうか。寂しいのか俺。





「ったく、寂しいとか柄じゃねえっつうの」





自分の感情に気づいたら恥ずかしくて仕方なくて。アイツに赤くなった顔が見られねえようにそっぽを向いた。





「本当にブン太くんはテニスが大好きなんですねえ」

「当たり前だろい。悪いか?」

「全然!だって私、ブン太くんのテニスをしてる姿が一番好きですから」





その言葉に驚き思わず名無しを見た。





「俺ら負けたのにか?」





こいつに偉そうなことを言ったくせに結局負けた。俺たちだけじゃねえ。学校としても負けたんだ。名無しに会うのはあの日、試合前に喋って以来だ。

約束を守れなかったことに、負けてみっともねえ姿を晒したことでコイツの俺への想いが冷めたんじゃねえのかって正直思ってた。


でもコイツは笑顔で言ってのけたんだ。





「勝ち負けとか関係ないです」

「関係ない?」

「はい!試合を見たのはあのときが初めてですけど、今まで見てきたどの姿よりも好きになっちゃいました」





ブン太くんらきら輝いてて凄く楽しそうだったから。と言い切る名無しは普段とは違う笑み。元気一杯なうんざりするような笑顔じゃなくて、優しくただ慈愛で包むかのような笑顔がそこにはあった。





「っ!」





ドクン、と心臓が跳ねた気がして慌てて顔を逸らすも胸の動機は収まらない。


なんだよこれ、何で俺コイツにドキドキしてんだよ。





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