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05/18(Fri) 17:14
節制ちゃん
そして俺は理解した。
俺が今まで感じていた嫌な予感の正体、何故か見当たらなかった四つ目の気配。
そう、それは今、俺の後ろにいる殺意の塊だ…。
俺は、ゆっくり、分かりきったその正体を確認する為にゆっくりと首を後ろへと回す。
そこにいたのは………。
「れ、れれ、蓮香さんっ!!?」
「どうした縁、声が上擦り顔は引きつっておるぞ?何をそんなに…くくっ…恐れておるのじゃ」
アンタだよ蓮香さん!?…なんて言葉は口から出ずに脳内消化された。
口に出したら、死ぬ気がしたから。
彼女の表情は笑顔だ、目を細めて口端を上げ…まるで狐の様。
その頭からはピンと狐耳が伸び、風もない室内なのに銀色の長髪はサワサワと靡き、周囲の空気はバチバチという音を立てていた。
その手には、いつも怒った時に持っているはずの包丁は無く、代わりと言わんばかりに青白い何かに包まれている。
以上、この事実から分かる事。
蓮香は『本気』だ。
その細く鋭い射抜く様な双眸は俺を、いや、正確には俺に抱かれている『それ』を真っ直ぐ見据えている。
「くくくっ、ここまで大胆にワシの旦那をたぶらかす妖怪がいようとはのぉ………くっくっくっ、覚悟は良いか?…『鬼』の小娘…!」
その言葉を受けて『鬼!?』とか驚いている茨子を後目に、俺の腕から逃れた黄金はとても楽しそうに笑いながら蓮香の前に立つ。
「良く分かんないけど、ゆーくんをいじめる奴は黄金ちゃんがブチ殺すよ?覚悟するのはそっちだよー『女狐』」
「ふんっ、口だけは達者じゃのぉ。『小鬼』風情が九尾であるワシにどれだけ喰らいつけるか…くくっ、見物じゃわい」
「…テメェ…黄金ちゃんを…『鬼』を舐めたな…?…鬼を舐めた奴は………ぶっ殺すッ!!!」
「戯け童子がっ!年季の違いを思い知らせてやるわっ!!!」
蓮香の叫びを皮切りに、両者の激突が始まった。
姿こそ小さき二人だが、その破壊力はまさに本物。
みるみるうちに店が崩壊していく。
俺は危険を回避する為に、残った三人を連れて外に逃げた。
尚、戦いが決着したのはすっかり空が黒くなった頃。
引き分けという形で終了し、二人は何故か仲良くなっていた。
茨子の幻術結界のお陰で周辺への事実漏洩は防げた…。
しかし店はぐちゃぐちゃ、当然のように蓮香と黄金、そして何故か俺まで説教をされた。
茨子の十八番、創作幻術で店を元に戻せたが………やれやれ、後が怖いな。
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05/22(Tue) 17:44
第七話・前編『終わりを告げる夏花火』
節制ちゃん
―祈常市、某所―
人気の無い遊園地。
その場所は、かつて子供連れの家族や仲睦まじいカップル等の人々で賑わう歓楽施設であった。
しかし、世界的不況の影響からか…客は激減。
収益が見込めなくなったこの施設が、ついには閉鎖となってしまったのは何時の話だったが…。
今ではすっかり風化した建物や遊具は色褪せ錆び付き…全体的に不気味な雰囲気を醸し出している。
その為、ネット等では出任せの噂が沢山流れていて…いつの間にか『心霊スポット』として一部の人達で賑わせているのは、何とも言えず皮肉なものだ。
「はぁっ…はぁっ…」
そんな場所での出来事である。
月明かりが照らす闇の中、茶色いポニーテールを揺らしながら走る小柄な少女が一人。
その息はとても荒く、長い間走り続けていることが分かる。
少女は、首を後ろに向けて追っ手が見えない事を確認してからようやくその足の速度を緩め、やがて立ち止まった。
背を丸めて膝に手を置き、肩で息をしている。
「何とか…逃げ、きった…かな?…はぁ、はぁ…少し、休まなきゃ…も、限界っ…」
少女は、途切れ途切れに喋ると周囲を確認して休めそうな場所を探す。
すると、一つの建物が目についた。
『管理室』
薄れて消えかかったプレートにそう書かれていたそこは、小さくて四角い建物だ。
屋根もまだ付いているし、隠れて休むには打ってつけに思える。
少女は、一先ずその場所を寝床に決めた。
「汚な…そうだけどぉ…この際、贅沢はっ、言って…げほっ、げほっ…られないよね」
そう、少女が苦笑いを浮かべながら決意して、建物に近付き壊れかけたドアに手を掛けようとしたその時。
「!?」
少女は何か嫌な気配を察し、咄嗟に地面を蹴りその場から離れる。
その判断は正しかった。
今しがた自分が居た場所に何かが刺さり、爆発する!
その威力に地面、そして管理室の入口は削り取られた様に崩れて無くなってしまう。
もし、一瞬でも気付くのが遅れていたら…そう考えると、少女は背筋が寒くなった。
着地し、自らに何かを放ったであろう追跡者の姿を確認すべく身体をそちらへ向ける。
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05/22(Tue) 17:46
節制ちゃん
そこに居たのは、闇に溶け込むような黒い装束、頭巾で身を覆った二体の宙を舞う敵。
その手には弓が握られており、敵は背中の矢筒から矢を取り出して再びこちらへ向かい矢を放つ!
「やだっ!?もう追いついて来たっていうの!?」
少女は叫びながら矢をかわす。
そして、懐から小さな球体を二つ取り出しながら敵に向かい駆けた。
それに対して敵は、少女に向かい機械的に矢を放ち続ける。
少女はその攻撃を掻い潜り、手にした球体を敵に向かい投げつけた。
「「!?」」
着弾した瞬間、球は光り輝き爆発する!
敵を中心に明るい花火が咲いた。
「…特製・花火弾(はなびだま)…何とかやっつけたけど…目立っちゃったな…」
荒い息の中で呟いた少女。
そんな彼女は、空から降ってきた黒焦げの紙片を掴む。
「…やっぱり式神、か………これは休んでる暇無いかも…急いで知らせないと」
「へぇ、誰に知らせるって言うんだい?」
「え!?」
瞬間、少女の身体が吹き飛ばされた!
敵を倒してはいたが、油断していた訳ではない。
少女は間違いなく警戒していた。
にも拘わらず、少女はその身体に拳を叩き込まれたのだ。
吹き飛ばされた少女は、近くにあった売店跡へと吸い込まれる。
「あははっ!逃げ足が早くて見失うかと思ったが、高い式神を使った甲斐があったよ…くくっ…自らの一族を裏切り計画の邪魔をしようとは…良い度胸だな『愛(らぶ)』!」
声高く叫ぶその人物は、黒く艶やかな長髪を靡かせた黒い忍装束の少女。
容姿こそ、愛と呼ばれた少女と似ていたが………その顔に貼り付いた狂気じみた笑顔は、愛と対極の位置にある雰囲気を醸し出していた。
その少女の名は『嘘(らい)』…愛の双子の妹である。
「おやおやぁ?返事がないなぁ…?…まさか一撃でくたばっちゃったかぁ!?あはははははっ!!!」
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05/22(Tue) 17:48
節制ちゃん
嘘は愛の吸い込まれた売店跡を見据えてゲラゲラと愉快そうに笑っていた。
しかし、その笑いはすぐに止まる事となる。
「ぎゃはははははは…はぁ?」
嘘は心底不愉快そうに眉をひそめて声を上げた。
自らの視界に、先程式神を倒した時に使われていた球体が、無数に飛び込んできたからである。
「これは…花火弾かっ!?」
憎々しげに口にした嘘は、その爆発に飲み込まれた。
爆煙が辺りを埋め尽くす中で、崩れた売店跡から姿を現す愛。
「いっててぇ…殴られる直前に空へ花火弾を投げて正解だったよ…」
瓦礫から出てきた愛は辛そうに呟く。
その身体には、激突した際に負ったのだろう生傷がいたるところに見えた。
「あれだけの花火弾を喰らえば、いくら嘘でも相当な痛手を負った…はず…だよねぇ?………ちょっと不安だけど今の内にぃ…」
逃げよう、そう言おうとした愛の言葉を遮るように、喉を鳴らしたような笑い声が響き渡る。
ハッとなった愛は、慌てて爆煙の方向に向き直った。
「くくくくくっ…あははっ…あーはっはっはっ!くだらねぇ!くだらねぇ攻撃しやがって!…効いたかと思った?ぎゃはははははは!残念だったね、ブァーカッ!!!全ッ、然ッ!効いてませんでしたぁー!!!」
爆煙が晴れてきてうっすらと見えた嘘の姿は無傷そのもので、腹を抱えてゲラゲラと笑いながら馬鹿にする様な口調で愛に向かい喋る。
その姿を見た愛は、信じられないといった様子で目を見開き、口をパクパクと開閉させていた。
「うっ、ウソ…あれだけの花火弾を喰らったらいくらなんでも…どうしてっ…こんなのウソよ!?」
「あぁ、ウソだよ…?」
そう声が背後から聴こえると、振り向く間も無く愛の身体に嘘の腕がまるで蛇のように絡まる。
メキメキメキッ!
「ア゛ァアアアアッ!!?」
ガッチリと締め上げられたその身体は、肉、骨、そして内蔵をギリギリと、ゆっくりと破壊されていく…その想像を絶する痛みに、愛はその可愛らしい容姿に似あわぬ汚い叫び声を上げた。
その声を聞いた嘘は、うっとりと、陶酔したような甘ったるい声で語る。
「あぁー…甘美…甘美な声だわ…痛いのね?痛いよね?痛いんでしょ!?…愛は痛い思いなんてしたこと無いだろうからねぇ…もっと、もっと!私にアンタの『初めて』の声聴かせてよぉお!!!」
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05/22(Tue) 17:50
節制ちゃん
語り終えた嘘は、愛の身体を更に強く締め上げた。
「―――――ッ!!?」
最早声にすらならない悲鳴を上げた愛は、その口から赤黒い液体を吐き出してガックリと項垂れる。
同時に、もがいていた腕からも力が抜け、ダラリと垂れ下がったのを確認してから、嘘は絡めた自らの腕を解いた。
どしゃり、と愛の身体が地面へと崩れ落ちる。
「…ふぅ、随分と手こずらせてくれたな…愛。正直、驚いたよ。道具屋にしては良い動きをしていたし、中々に頭も回る…黙って族長の計画に従っていれば、それ相応の地位に着けただろうに…馬鹿な奴だ」
地面に転がる愛に対して語りかけた。
その言葉通り、嘘の服は花火弾の爆発によって所々焦げており、その白く綺麗な肌に火傷の跡が見られる。
「ちっ…思ったより火傷が酷い………いや、問題ないか…この程度の傷なら再生可…!?」
自らの身体を観察しながら呟いていたら、突然足に何かが絡み付いた。
「愛!?き、貴様まだ息が!?」
そう、絡み付いたのは先程仕留めたと思っていた愛。
彼女は必死で嘘の足に絡み付き、小さく何かを呟いている。
耳の良い嘘には、聴こえてしまった…殺意の籠ったその呟きが。
『一人じゃ、死ねない…お前も、道連れだ』
そう呟くと、愛は懐にしまっていた花火弾をありったけ地面にばら蒔いた。
その光景をはっきりと見てしてしまった嘘の背筋は凍り付く。
そのせいで身体の反応が遅れ、逃れ損なった嘘は続きを見る事となる。
無数に輝く花火弾の群れを…。
瞬間、すさまじい威力の爆発が起こった。
その威力は遊園地の約半分を吹き飛ばすほどで…瞬く間に遊園地は瓦礫の山となる。
そんな中、ふらふらとしながらも立ち上がった人影。
嘘である。
その服は焼け焦げ、もはや服の役目を果たさずに、嘘の肌をさらけ出させていた。
その肌も、少女が持っていた白く美しい柔肌とはかけ離れており…見るも無惨に、醜く焼け爛れている…。
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