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05/22(Tue) 19:53
節制ちゃん
それを確認すると、蓮香は変わらぬ声色で言い放つ。
「…ワシは、お主が思っておるような女ではない。これで、分かったじゃろう?………ワシは、お主の事など………何とも思ってはおらん」
俺に背を向けて、言葉を続ける。
「………分かったなら、ワシの事は悪い女に引っ掛かったとでも思って忘れるんじゃな………。はははは、助かるかは知らぬが…もし、もし助かったのなら…あの可愛いげのない鬼娘とでも仲良くやると良い………」
そう言い終えると、彼女は歩き出した。
「蓮香ァアアッ…!」
その名を呼ぶ、最後の力を込めて。
きっと、ここで蓮香を引き止めないと…恐らく…もう、二度と会うことが出来なくなってしまうと思ったから。
死の淵に立ってから、妙に頭だけは回っている。
だから、今、生をありったけ込めて叫んだのだ。
叫びは、届いた。
彼女は、ビクッとその身を跳ねさせて立ち止まり、こちらに振り返る。
「………!?」
俺は、振り返った彼女の顔を見た瞬間、冷たく回る思考回路が停止してしまった。
何も、考えられなくなってしまったのだ。
だって、彼女は…蓮香は………。
「軽々しく我が名を呼ぶな、人間」
そう、吐き捨てる様に喋ると、前を向いて雨の降る闇の中に消えてしまった。
「………ごめ…んな………れん、か…」
消えた後ろ姿にそう告げて、俺は力尽きた。
多分、もう、助からないだろう。
全身に力が入らないのだ。
「………」
言葉も出ず、視界も暗くなってきて、頭の中も靄がかかる。
そう言えば、皐月さんに片付けを頼まれてたっけ…。
きっと、怒るだろうな…何をやってるんですかって。
なんて、状況にそぐわぬ思考が巡る。
死ぬ時なんて、案外こんなものかもしれない。
前の時は、考える間もなく死んだしなぁ…ははっ。
俺は、何もかも疲れたのでゆっくり目を閉じた。
『ごめんな、蓮香…あんな顔見せられたら…忘れるなんて、俺には出来ねぇよ…』
遠退く意識の中、先程見た蓮香の姿を眺める。
昔見た、背の高い大人な蓮香と変わらぬその姿を。
瞼の裏に焼き付いたその顔は、泣いていた。
美しく整ったその顔を、まるで子供のようにくしゃくしゃにして…確かに、泣いていたのだ…。
こうして、意識はブッツリと途切れ…俺…八尾 縁は、死んだ。
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