クロック オルゴール

□クロック オルゴール T
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ぐいっと引く。
カランとドアベルが音を鳴らす。
2人は、とけい屋の入口に立った。
歯車が回りはじめた。

1•メモワール

油と古本のにおい、重い歯車の音。それを、目覚めて最初に感じた。今まで何をしていたんだったか、と思った。<ああ、そうだ。昼寝をしていたんじゃなかったっけ!あの子と一緒に!
あの子はどこだろう?いつもならとなりに…>あたりを見回して、思い出した。あの子はもういないんだ。あの、恐ろしいゲームに負けて、消えてしまった• • • • • • •。何故消えてしまったのかは、思い出せないけれど。
様々な光景が頭の中で、走馬灯のように駆け巡る。遊んだ事、泣いた事、笑った事、そして、
2人で交わした約束、“pour toujours ensemble”プール トウジュール アンサンブル意味は…意味、1番大切な所が記憶から抜け落ちている。僕は、あまりに長く眠り過ぎたのだ。だから大切な事を思い出せないのだ。そのうち、思い出せる。今は何もせずに過ごそう。頭ではそう思っているのに、無意識のうちに僕はあるきだしていた。ふと、ここは時計塔だったな、と思っていた。階段を上る。そして、気がつくと空の見える最上階にいた。そこから見える景色は、精巧なドールハウスのようだった。
美しく、生気がない。街も、生き物も、歩いている人間も。それはまさに、時が止まっている街だった。
ぼんやりとその景色を眺め、僕は鐘を鳴らした。大きな鐘の音が響いた。まるで水面に波紋がひろがるかのように。街の時は動き出した。人々は、何の違和感もないというように、会話をしたり、商売をしたり、遊んだりし始めた。そこで僕は奴に会った。あの子とは違う傲慢で、醜い者だった。僕は、自分の役目を知った。

「ノワール!」そう呼ばれてはっとする。随分昔の事を思い出してしまった。
「次の楽者候補は女の子よ。13歳の。資料によると、初代候補者もこれぐらいの女の子だったそうじゃない。」タイミングがいい事だ。今、その子の事を考えていたと思ったら、会議にとりあげられるとは。議長であるビヤンが少し心配そうな顔をした。「あまり仲良くなってはいけないわよ。どうせ、失敗するんだから。」そう言うと、ビヤンが宣言した。「では、これにて楽者候補についての会議を終わります。各自持ち場について下さい。」
僕は時計塔に上った。また鐘を鳴らす。扉を開くために。

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