短編
□年越し
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「詩音、これは何ですか?」
「年越しそばだよ。アマイモン、食べたことないの?」
「年を跨ぐときにこちらにいたことがないので」
「ふーん。この年越しそばはね、諸説あるんだけど、昔の金物屋さんが、零れた金の欠片をそばの練り物で拾ったことに因んで、お金が入ってきますように、って願掛けして食べるものなの」
「なら、ボクにはあまり関係ないですね」
「なんで?」
「だって、ボクは鉱物の在処を全部知っている地の王ですよ?」
「あぁ、そういえばそうだった。アマイモンがあまりそういうのに興味を持たないから、すっかり忘れてた」
「詩音が金を望むなら、採ってきてあげましょうか?」
「えっ、いいよ。いらない」
「詩音はやっぱり変わっていますね。いままでボクを喚び出した人間は、大抵その鉱物の在処を教えてもらいたがったのに」
「大きな富は身を滅ぼす毒なの」
「そういうものですか」
「そういうものよ。それに、今夜はそういった煩悩を祓う日なんだし」
「あぁ、あの除夜の鐘というやつですね?」
「そうそう。私、あれを数えるのが好きなのよね」
「なるほど、だからボクや兄上の誘いになかなか乗ってくれなかったんですね」
「えっ?誘い?」
「ええ、道を踏み外させてみたかったんですが…。結局最後まで引っ掛かりませんでした」
「へぇー…。そんなに効果があるなら、今年はアマイモンも一緒に数えようよ。もしかしたら、食欲の煩悩が少しはマシになるかもよ?」
「別に構いませんが、この年越しそば、食べてもいいですか?」
「あ、どーぞどーぞ」
「イタダキマス」
「いただきます」
「そういえば詩音」
「ん?」
「来年もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
年越し
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