短編
□これは何ですか?
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「アモンお兄様。シオン、こんなのを拾いました。これは何ですか?」
兄上と対戦するつもりでゲームの練習をしていると、妹のシオンがボクの視界を塞ぐように、目の前に何かを差し出した。裸のニンゲンの雌の写真が載っている、薄い本のようなもの。薄い本と言っても、兄上が買い漁っていらっしゃる"どうじんし"なるものとはまた違う本だ。確かボクの記憶によれば、祓魔塾のピンク頭のニンゲンが買っていたような気がする。
「あぁ、エロ本と言うものです。ニンゲンの雄が、性的な興奮を引き起こすように作られた本ですよ」
そう言って目の前の本を手で退けると、派手な音がして"K.O."と画面に表示された。
あぁ、いいところまでいっていたのに。
「エロ本。興味深いですね。何故ニンゲンはこんなものに興奮するんでしょう?ただの雌の裸じゃないですか」
後ろではシオンがさも不思議だと言うように、エロ本のページを捲っている。兄上がご覧になられたら、卒倒される光景だろう。
「アモンお兄様。アモンお兄様もこのような本で興奮なさるのですか?」
無感動な声でシオンが言った。変なところでボクに似ている。
「別になんとも思いませんね。と言うより、こんなにおおっぴらに脱がれては、勃つものも勃ちませんよ」
「はぁ、そういうものですか」
納得したのか、していないのか、気の抜けた返事。多分普段のボクも似たようなものだろう。だからシオンが真似をする。兄上の真似をすれば、もう少し元気なオンナノコになったのだろうか。
別に兄上のような性格になって欲しいわけではない。いや、むしろ、ならないで欲しい。けれど、兄上が物質界に行かれてから生まれたシオンにとって、やっぱり真似をするのはボクの仕草で。そのせいでこんなに無感動な性格になってしまったのかと思うと、それはそれで申し訳ない気持ちになった。
「ではアモンお兄様。おおっぴらに脱がれるのがご趣味でないのなら、恥じらいながら隠せば良いのですか?」
いい加減ゲームにも飽きてきて、ベヒモスを連れて散歩に行こうと思い付いた時、またしてもシオンが声を上げた。
疑問に思えばすぐに訊くのは昔から何一つ変わらない。ずっと離れていた兄上はもちろんのこと、ずっと一緒にいたボクでさえもこの幼い妹は可愛らしい。何でもかんでも訊かれれば教えてしまうのは良くないことだし、時には自分で考えて答えを出させる方が良いのは承知の上だが、それでも教えてしまうのは、単ーひとえーにシオンが可愛らしいからだ。
「別にそういう訳じゃないです。顔や、体のバランスなども個体個体で差違がありますし。誰でも良いわけではありません」
コートのポケットから飴玉を一個取り出し、ペリペリと透明な包みを剥ぐ。それを口に入れようとしたとき、またシオンが声を上げた。
「ではシオンはどうですか?この間メフィーお兄様とお風呂に入ったとき、綺麗だと褒めていただきました。アモンお兄様もそう思っておられますか?」
口に飴玉を近付けたまま止まる。どうかなされましたか、アモンお兄様?と言うシオンの不思議そうな声。
「まぁ、確かにそそられるものはあります」
「そうですか」
シオンはそれきり口を結び、興味が薄れたのか手に持っていたエロ本を、乱雑にゴミ箱の方へ放り投げた。バラバラとページを捲りながら宙を飛んだそれは、ガコンと見事ゴミ箱に収まった。
「アモンお兄様、お散歩ですか?お供してもよろしいでしょうか」
「別に構いません」
シオンの口角が少しだけ上がった気がした。
エロ本
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