短編

□悪魔と恋愛至上主義少女
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「詩音さん。今年に入ってこれで何回目ですか?」




メフィストはダージリンの入った白い湯気を立てているティーカップ片手に、向かいのソファでメソメソと泣きながらクッキーを頬張っている少女に言った。ふと、彼女の手が止まる。




「な、7回目ですぅー!」




そう叫ぶや否やワッと泣き出し、それなりに整っているはずの顔が見る影もない。涙でぐしゃぐしゃの顔面を両手で覆い、その指の隙間からしゃくり上げる声が溢れる。


しかし何が7回目だと言うのか。




「貴女は男を見る目が無さすぎるんです」


「そんな言い方しないでくださいよー…!」


「ちょっと優しくされれば誰でも好きになるその性格も性格ですね☆」


「私が惚れっぽいことなんて昔から知ってますぅー…」




言わずともお分かりだろうが、所謂『彼氏にフラれた』回数である。




「去年は16回付き合い、内15回はその年の内に、1回は今年に入ってすぐ。一昨年は14回付き合い、その全部が年の終わりまで続かなかったんですよね。その前の年は一体何回でしたっけ?」


「ううぅ、11回です…」




全くもって進歩していませんね、ニンゲンは進化する素晴らしい生き物ですが、貴女の場合は退化しているようにしか感じられません☆と、優雅に紅茶を啜りながらメフィストが言う。詩音は目の前の傷口に塩を塗りたくる男を恨めしそうに見つめ、またぐずぐずと泣き出した。その手にはしっかりクッキーが握られている。




「…その調子でいけば、今年はどこまで行くことか。いっそのこと、彼氏なんて作らなければ良いじゃないですか」




クッキーをやけ食いする彼女に、メフィストが溜め息混じりにそう言えば、それは違います!と彼女が叫んだ。涙は引っ込んでいる。




「良いですか?恋愛というのは、この世で最も神聖なものなんです。恋を成熟させ愛へと導く。それは決して一人では出来ません。そして愛へと変わり行くにつれて、二人の絆もまた強固なものへと変わり、互いに愛の言葉を囁かずにはいられなくなるんです!そしてさらに、人にとって恋愛とは呼吸に等しいものがあります。何故か?それは人が一人では生きられないから。うさぎが寂しいと死ぬような、まぁ、あれは迷信でむしろ基本生活が1匹で成り立っているうさぎからすれば、変に構われ過ぎると逆にストレスで死ぬんですが。話が逸れましたけれど、つまり人は近くに自分へ向けられる愛を感じていないと、誰かを愛していないと死んでしまう生き物なんです。そしてその愛というのは沢山の意味を持っていますが、その中から親愛でも友愛でも敬愛でもなく、恋愛というのが最も重要なんですよ。だから人は恋人を求めるものなんです。分かってもらえましたか?要するに、恋愛サイコー!ってことなんですが」


「えぇ、えぇ、あなたが救いようがないほど馬鹿で、恋愛至上主義者なのはよく分かりました☆」


「馬鹿っていうなぁー!」


「馬鹿に馬鹿と言って何が悪いのです。このお馬鹿さん☆」


「うわぁーん!」




そう叫ぶや否や、手に握っていたクッキーをばくばく食べ出す。やけ食いなんて下品ですよ☆と言うメフィストの声も聞こえていないのか、黙々とサクサクの香り高いクッキーを口に入れて噛み砕いていく。(ちなみにこのクッキーはとても一般人には手の出し難い高級なものである。)




「それなら私などはどうでしょう?」




まるでハムスターのように口一杯にクッキーを詰め込んだ詩音にメフィストが言った。




「これでも、一応アピールはしていたのですが、詩音さんときたら…。自分を好いている私の前で他の男の話ばかり。流石の私だって傷付きます☆」


「え、いや、アピールとかして…ました?」


「していましたとも。この私が好きでもない人間の愚痴に付き合うとでも?」


「…言われればそうかも」


「それで、お返事は?」


「えーっと、よ、よろしくお願いします…」





悪魔と恋愛至上主義少女




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