短編

□死とはなんぞ
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死ぬんですかと訊くと、死なないよと彼女は答えた。


死なないんですかと訊くと、死ぬよと彼女は答えた。




「どっちなんですか?」


「どっちだと思う?」


「分からないから訊いているんです」


「分からなくていいから言わないの」


「どうしてですか?」


「どうしてでしょう」


「言葉遊びのつもりですか?」


「言葉遊びのつもりよ?」


「楽しいですか?」


「楽しくないわ」


「なら止めてください」


「でも止めたくないの」


「我が儘ですね」


「我が儘でしょ」




ふふ、と楽しげに彼女は笑った。


おかしな人間だとつくづく思う。




「アマイモン」


「ハイ」


「アマイモンは死ぬ?」


「死にません」


「じゃあ、絶対に死なない?」


「それは…、分かりません」


「どうして?」


「悪魔といえども、未来のことが分かる訳じゃありません」


「つまりはそういうこと」


「何がですか?」


「私が死ぬのに死なない理由」


「ボクは悪魔ですが、君は違うじゃないですか」


「アマイモンが死なないのは悪魔だから。逆に死ぬのは未来が分からないから。私が死ぬのは人間だから。逆に死なないのは未来が分からないから。アマイモンが死なない可能性と、私が死ぬ可能性はあまり変わらない。けれどそれはあくまで可能性の話であって、未来がそうと決めつけられた訳じゃない」


「そうですね」


「だから私は死なないし死ぬの」




そう言ってしまってから、彼女は静かに息を引き取った。


未来の可能性をボクに説いた彼女は、既に未来を決めつけられていたのだ。


とうとう彼女はその事実を知らずに逝ってしまった。


いや、あるいは知っていたのかもしれなかった。知った上であんな言葉遊びに興じたのかもしれない。





死とはなんぞ




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