短編
□死んでもいい。なんちゃって☆
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窓の下にメフィストが見えて、私は桟に足を掛けた。よいしょと掛け声上げて教室の外に飛び出す。
「メフィスト」
驚いて目を見開く彼にダイブ。
もうすぐで地面に到達する私の方へ、彼の長い腕が伸ばされる。まるで吸い寄せられるように、私の体はスッポリ彼の胸の中に収まった。
「言葉さん…」
私をしっかり受け止められたのを確かめてから、メフィストが深い溜め息と共に呟いた。
なぁに、と抱き抱えられたまま彼の顔を覗き込む。耳に飛び込んできた私の声は酷く愉しげで、けれどほんの少しだけ残念そうだった。
「貴女、今何階から飛び降りたのか、分かっていますか?」
愉しげな私に対して、さっきよりも深い深い溜め息が溢れる。よっぽど驚いたのか、ぎゅっと抱き締められた。
「えーっと、2階?」
「5階です」
あれぇ?そうだったっけ?ととぼけて笑う。
全く、貴女という人は、と言うメフィストの呆れ返ったような声が鼓膜を擽-くすぐ-り、心地好い。
「死にますよ?」
「いいの、別に。死にたいから」
地面に降ろされ、身長差のせいで遠くなったメフィストの顔を見上げて言った。
ぱちくり。彼のオリーブ色の瞳が瞬かれる。明らかに困惑した風だった。
そんな彼を見上げて私はニッコリ。
「なんちゃって☆」
途端に三度目の深い深い深い溜め息。
「そういう冗談は、心臓に悪いので止めてください☆」
語尾に星が飛んでいるが、その笑顔は微妙に引き吊っている。
ああ、もしこのタイミングでこう言ったら、彼はどんな顔をするんだろう。
私より何倍も長く生きる彼を惑わすであろう、何ともない普通の魔法の言葉を思い浮かべ、想像すると楽しかった。
「メフィスト」
「はい、なんですか?」
「本当はね」
精一杯背伸びして、彼にも少し屈んでもらって、そっと魔法をかけてみた。
案外マジなんです。
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