短編
□気のせい
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「フェレス卿」
「はい?」
「これは一体何のイヤガラセですか…?」
「イヤガラセだなんて、そんな。よくお似合いですよ?」
「すみませんが、全然嬉しくないです」
「いやぁー、普段のスーツ姿の詩音さんもお美しいですが、そういう魔女っ子の格好も可愛らしいですね。まさにギャップ萌え!です」
「……セクハラですよ」
「いいえ、スキンシップです」
「過度なスキンシップのことを、スキンシップとは言いません。セクハラと言うんです。いい加減にしませんと、本気で訴えますよ」
「良いじゃないですか、今日一日くらい」
「ハロウィンだから、ですか?」
「えぇ、俄然ヤる気がでますし」
「転職したい」
「転職なんて認めませんよ。さ、可愛らしく『Trick or treat』とおねだりしてください」
「…先に聞いておきますが、お菓子って用意しているんですよね?した上で要求しているんですよね?」
「…『Trick or treat』と言えばすぐに分かりますよ」
「その顔、その口振り。フェレス卿、用意していませんね?」
「何のことです?」
「(よくもまぁ、ぬけぬけと!)」
「そんなことより、さぁ!」
「…お菓子がなくてもイタズラはしませんからね」
「では私が言いましょうか?」
「結構です」
「照れなくて良いんですよ」
「言わなくていいですって」
「Trick or treat」
「………」
「………」
「私、お菓子なんて持ってませんよ」
「ではイタズラですね☆」
「いや、あの、フェレス卿」
「はい?」
「ハロウィンのそもそもの意味、ちゃんと理解してます?」
「何のことです」
「ハロウィンって本来魔除けのイベントですよ?」
「えぇ、それは知っていますが」
「…フェレス卿って、悪魔ですよね?」
「そうですが」
「あの、『魔除け』ですよ?」
「…あぁ!なるほど、そういうことですか」
「…本当に理解しましたか?」
「勿論です」
「じゃあこの手はなんです。この手は」
「嫌ですね、詩音さん。私にこの程度の魔除けは意味ないですよ」
「…理解していませんね」
「どういう意味です?」
「ハロウィンは、悪魔や魔女にお菓子をあげる代わりに、災厄を持ってこないようお願いするお祭りです。つまり、お菓子をあげられなかった者には、災厄が降りかかるってことですよ。今ここでフェレス卿にイタズラされたら、候補生よりも弱い祓魔師の私なんか死んじゃいますって」
「あぁ、確かに。ホブゴブリン一匹ですら、一人では倒せませんからねぇ。悪魔に関しての知識は豊富だと言うのに…」
「えぇ、なのでお菓子を用意してきます」
「別にいいじゃないですか。もし襲われても私が守って差し上げますよ☆」
「…かっこいいことを言っているんですが、現時点で襲われているような気がするんですけど」
気のせいです☆
絶対違うと思います。
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