短編
□枯れた君への手向け
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「永久ーとわーに、ボクと共にいてください」
あの時彼女はなんて答えた?
彼女は何も答えなかった。
ただ、悲しそうな顔で苦しそうに笑っていたのを覚えている。
彼女は嘘をつけない。
だからこそ、笑ったのかもしれなかった。
「君は、気付いていたんですね」
否、ボクが気付こうとしていなかっただけ。
「ヒトの流れはあまりにも早すぎて、ボクの流れはあまりにも遅すぎたんです」
そっと彼女の頬を撫でた。
以前はすべすべと張りのあった白い陶器のような肌は、まるで枯れ木のように皺が刻まれ、点々と黒っぽいシミに変わっていた。
さらりと撫でた髪は、黒く艶やかなものではなくなり、綺麗な白色に染まっていた。
それは、確かな歳月の流れをボクに知らしめる。
なんたる悲劇。なんたる喜劇。
彼女はもう二度とボクに笑い掛けないのだ。
ボクは嘆いて、時は愚かだと嘲笑う。
これがボクの、叶わぬ恋い焦がれの結末か。
そうだとすれば、ボクら悪魔はどれほど神に嫌われているのだろう。
「詩音…」
壊さないように、けれどきつく彼女の細くて枯れた幹のような体を掻き抱く。
乾いた唇に口付けを一つだけ落として、ボクは彼女を元のように寝かせてあげた。彼女の顔は、とても幸せそうだった。
「君は確か菫ーすみれーの花が好きでしたね」
トンとシーツを軽く小突くと、そこから芽が出て葉が伸び、そして紫の小さな菫が彼女の体を覆って咲いた。
「さようなら、詩音」
それはボクからの手向け草です。
意味は君のことなので知っているでしょう。
枯れた君への手向け
菫…花言葉:小さな幸せ
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