短編
□悪魔と悪魔主義少女
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「…にやにやして、一体どうしたんですか?ちょっと気持ち悪いですよ。詩音さん」
「レディに対して失礼な!にやにやなんかしてない!」
ぷくり、彼女の頬が膨らむ。けれどその顔は怒っていなくて、どちらかというと喜びに満ち溢れた笑顔に近かった。
私は一つ溜め息を溢し、彼女の手の中の携帯に目を向けた。
赤にシルバーのラインが一本入っただけの、至極シンプルなもの。ストラップ等は一切付いておらず、今時の少女にしては珍しい。
詩音曰く、写真を撮る邪魔だから要らないのだそうだ。
彼女は、様々な景色を携帯で写真を撮るのを趣味にしている。彼女の携帯の画像フォルダは、まさに写真がはち切れんばかりに詰め込まれていて。彼女は撮った写真を一枚も消したことがなく、それを保存するためだけにSDを何個も持っていた。勿論、容量がなくなったものを。
「それで、一体なんだと言うんです。まぁ、貴女のことなので大体は想像できますが」
紅茶を啜りながらそう言うと、待っていましたと言わんばかりの様子で、ズイと目の前に彼女の携帯を突き出された。
じゃーん、という彼女の効果音と共に、私の視界に入ってきたディスプレイに写っているものは、一匹の猫。けれど普通の猫じゃなくて、
「今朝見つけたの。綺麗でしょ」
それは死体だった。
車に轢かれたのか、体はおかしな方向に捩れていて、脳味噌が辺りに散らばり、かろうじて猫と判る肉の塊が、赤にまみれてそこにあった。
「…また、悪趣味ですね」
「悪魔のあんたには言われたくない」
「言ってくれます」
「あんたが言わせてんの」
彼女は所謂死体愛好家である。
醜い死体こそが美しく、おぞましい腐臭こそが芳ーかぐわーしい香りなのだそうだ。
「…全く、そんなものに興味を持つよりも、もっと女性らしいものに興味を持ちなさい」
「例えば?」
「そうですねぇ…。アクセサリーや、私服などですかね」
そう言うと、今度は本当に不機嫌そうに顔をしかめた。
そんなに嫌ですか、女性らしく着飾るのが。
「宝石とか、あんな無闇矢鱈に光ってるただの石ころでしょ。あんな下品なものより、こっちの猫の死体の方が数十倍美しいに決まってる」
「………。そういう考えを持っている内は、到底女性らしい感性は培われませんね…」
「そういうこと」
私はまた溜め息を溢した。
悪魔と悪魔主義少女
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