短編

□キスなんかじゃなくて
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強引に上を向かされて、唇の上に唇を乗せられる。またか、と内心で思った時、突然触れていた唇が遠ざかり、嫌いなんですか?と聞かれた。何のことか全然分からなくて、首を捻って彼を見ると、彼は自分の唇を指差してキス、とだけ答えた。




「何故そう思ったの?」


「あまり楽しそうではない、と言うより反応が皆無なので」




人はキスをすると興奮するらしいですから、と付け足した。


彼はいたくこの行為を気に入ったらしく、これは日に何度も繰り返される。勿論そこに恋愛感情なんて面倒臭いものはなく、ただ彼の気紛れと遊び半分で行われる。遊び、と言うには些か可愛いげのないものなのだけれど。


なんて考えていると、いまだに上を向かされていた私の顔に、また彼の顔が近付き、私の唇に彼のそれが重ねられた。彼は無表情に私を見下ろしているし、私も無表情に彼を見上げていることだろう。女子の中でも小柄な私は、この背の高い悪魔を見上げなくてはならない。それが時折悔しくてならない。




「反応が皆無、と言えば貴方にも当てはまるじゃない」


「そうですか?」


「そうよ」


「ボクは表情豊かな無表情なんです」


「何、それ」




私の言葉に返した彼の屁理屈に答えると、また口付けられた。二人とも目を閉じないので、必然的に目が合う。いい加減、上を向くのにも疲れたのでそろそろ放して欲しい。そういう意味で彼の腕を軽く握ると、ベロリと一舐めしてから離れる。そしてまた嫌いなんですか?と問うた。




「別に嫌いじゃないわ。ただ唇と唇をくっ付けただけのそれに、何の感動もないだけよ」


「人はこれで愛を語ると聞きましたが」


「それは馬鹿の"妄言"と言うものよ。キスで愛を語るなんて、出来っこないわよ。相手をどう思っていても出来る行為なんだから」


「そういうものですか」


「そういうものよ」




彼は少し納得のいかない、とでも言いたげな顔をした。




「ボクは貴女を愛しています」


「そう、ありがとう」


「貴女を愛しているからキスをするんです」


「あら、光栄だわ」


「本当にそう思っていますか?」


「私の言葉、覚えてる?」


「何のことですか?」


「キスで愛は語れないとは言ったけれど、唇で愛を語れないとは言っていないわ」




彼の目が少し見開かれる。それはつまり、と彼は小さく呟き、私はその通り、と言った。





唇で愛を語ってください




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