短編

□生者に愛ある誓いを
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「シオン、シオン、」




耳元で吐息と共に囁かれる自分の名称を聞き流しながら、私はアマイモンの腕に抱かれて大人しくする。どうしたと訊くわけでも、時折ぞくりと来るこそばゆいそれに身を捩るわけでもなく、ただ無言で抱き締められた。


何故なら彼が、私に何かの反応を期待しているわけではないから。単に、その細くも力強い両腕に、私を閉じ込めておきたいだけだから。だから私は人形のように、大人しく彼の腕の中にいる。




「シオン、ボクは永遠に貴女を愛すると誓います」




そう言うと、私を抱ーいだーく腕ーかいなーに力を込めた。あまりに強い力で抱き締められて、一瞬呼吸が止まる。


アマイモンの体は、お世辞にも柔らかいとは言い難かったし、温かいとも言えない代物なのだけれど、心の底はポカポカした。


私は愛されているんだ、とぼんやり思った。


アマイモンはどこか悲しそうに私をみつめ、私の髪をまるで壊れ物でも扱うように、ゆっくりとした手つきで撫でた。何をそんなに悲しい顔をするのだろう、と思ってみても、私は今の自分がどんな姿をしているのか知る術を持っていない。


けれど確かに背中から生えるように腹から刺さった剣は、随分グロテスクに見えるに違いない。


悪魔である私に対して聖なる呪ーまじなーいでも施されているのか、貫かれた痛みとはまた別の、ビリビリとした痺れが手足を襲う。抵抗するつもりなど端からないが、私が彼に大人しく抱かれている要因の一つは、やはりこの脂汗の滲むような痺れだと言えた。と言うより先に、こんな状態でよく私は意識を保っていられる。もっとも、大分意識が遠のき始めているのだが。




「シオン、」




段々近付いてくるアマイモンの瞳と、段々暗くなっていく視界。最期に彼が私の名称を呼ぶ声がした。





死者には哀ある接吻を




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