短編

□ごーいんぐまいうぇい
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シオン、遊んでください、とアマイモンに言われたので、嫌だと即答してやった。彼は少し不満そうに私を見て、どうしてですか、と尋ねた。硫黄の芳しい香りと共に黒い風が私と彼の間を吹き抜け、バタバタと彼のボロ雑巾のようなコートを煩くはためかせる。


それを視界の端に捉えながら溜め息一つ。アンタの遊びは遊びじゃないから、と私は答えた。


アマイモンは不思議そうに首を捻り、これまた不思議そうな瞳を私に向ける。そしてどうしてですか、と再度繰り返した。


私は彼の言う"遊び"を思い浮かべながら頭を押さえる。


あんな血腥いものを誰が遊びと言うのか。そもそも、今まで一度だって好き好んでその"遊び"に加わった者はいなかったじゃないか。いつも勝手に相手を巻き込んで、勝手にアマイモンが"遊んで"いるだけ。相手のことなんて何も考えていない。


全くもって彼は我が儘だ。


これを我が儘と言わずに何を我が儘と言う。遊びは一人が楽しむものではなく、大人数でも楽しめるものではなかったのか。


本当に彼は我が儘だ。


私は彼みたいに戦い向きの悪魔じゃないし、痛いのは嫌だし嫌いだ。とにかく、淫魔の類いである私に"遊び"をけしかけてくれるな。冗談抜きで瞬殺に決まっている。


とそんな感じのことを言うと、痛くなければ良いんですね?と無表情なりに楽しそうな顔をして私を見た。


え、何それどういう意味。そう心の中で呟いた瞬間、黒と赤の入り混ざった汚い空と、彼の緑の髪が視界に映る。唇には冷たくも柔らかい感触。

押し倒されたと気付くのに一秒。ごちん、とぶつけた後頭部の痛みが治まるのに三秒。唇に触れている冷たいそれが、アマイモンの唇だと気付くのにまた一秒。


計五秒のタイムロスの後、自分がアマイモンに押し倒され、なおかつキスをされていることに気付いた。




「痛くしないよう、頑張ります」




一度べろりと私の唇を舐めてから離し、楽しげに言う。何を、と言う前にまた口付けられて言葉は消えてしまった。





ごーいんぐまいうぇい




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