短編

□悪魔とシニシズム少女
1ページ/1ページ






「詩音、愛しています」


「嘘を吐くのは人間だけで結構」


「嘘なんかじゃありません」


「それは貴方たち悪魔お得意の、人を惑わす甘言かしら?」


「…どうすればボクの愛を信じてもらえますか?」


「そうね。私以外の世界中の人間を殺して、その血で貴方が溺れ死んだら信じてあげる」




きっと今の私は、シニカルな笑みを浮かべていることだろう。アマイモンの表情が僅かに曇ったのを眺めながら、ぼんやり頭の片隅で思った。そして、馬鹿らしいとも思った。随分無茶なことを言っているな、と。


ややあってアマイモンが口を開いた。その唇が溢す言葉を、私は今まで何度否定してきたんだろう。




「そんなの、出来る訳ないじゃないですか」


「なら貴方の愛はその程度だったということよ」




彼の反応は極めて正しい。私が今掲げた条件は、彼に死ねと言っているようなもの。


自分が言ったことの癖に、なんて酷い、と思わずにはいられない。きっとそう思っていること自体が、私を更に酷い女に仕立て上げるんだろう。




「愛している、なんて想っていなくても言えるものよ。ただで言えるからって、誰も彼も愛を囁きすぎだわ。もしも人生で一度しか言えない呪いの言葉だったなら、私も貴方を愛せたのかもしれないわね」




愛しているというその言葉は、いつも私を期待させ、そして落胆させてきた。そんな思いをするのはもう御免。


その言葉が嘘かどうかなんて、今更どうでもよくて。結果私は自分を守れるなら、他人の気持ちなんて蹴飛ばせるというだけ。


どれだけ耳元で愛を囁かれたって、なんのリスクも背負っていないものに私の心は揺れ動かない。




「もしもボクが貴女以外の他の女に愛を囁くのが怖いなら、ボクのこの舌を抜いてしまいましょうか?そうすれば貴女がいなくなった後も、ボクが貴女だけを愛することの証になります」




咄嗟に言葉が出なかった。


今までの全ての男たちは、困った風に笑っただけだったのに。


悪魔である彼だからこその発想だったのだろうか。


そう思いながらも、きっと口先だけだと疑う私は救いようもない程の馬鹿だ。アマイモンなら本当に舌を引き千切ってしまうだろう。




「舌を抜いてしまったら、私と話せなくなるわよ?」




口を開いて、今にも舌を切り落としてしまいそうな彼にそう言う。アマイモンはなんでもないような顔で私の顔を少し見た。ぱちくり、隈の酷いたれ目の瞳が瞬かれる。




「それは杞憂と言うものですよ。ボクと貴女の間に言葉なんて不確かな物は必要ないですから」




あぁ、全くだ。全くもってその通り。本当に愛し合う者の間に言葉なんて必要ない。言葉があるから勘違いやすれ違いをして、そして不安になったりする。けれど、




「貴方と話せなくなるのは、少し寂しい」




私はシニカルな笑みを自分に向けながらそう言った。





シニシズム少女と悪魔



シニカル…皮肉な態度をとること、冷笑的、嘲笑的
シニシズム…皮肉、冷笑、皮肉な見方、冷笑癖


</>

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ