短編

□本物の馬鹿
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馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、まさか、




「貴女、本当の馬鹿だったんですね」




彼女は薄く笑った。馬鹿だと貶されているのに笑うなんて、本当に馬鹿らしい。


何がおかしいのかと聞くと、また彼女は少しだけ笑った。ちょっとはボクの質問に答えて欲しい。


座り込んだ彼女に合わすように、ボクも腰を床に下ろす。ぴちゃり、とお尻の辺りが少し濡れる感じがした。


座っているのも疲れてしまったのか、無精な彼女はそのままズルリと床に寝そべる。びちゃ、と音がたった。瞼がゆるゆると閉じられて、どうやらこのまま寝てしまうつもりらしい。


待ってください。ボクとの約束、忘れていませんか?今日はこの後、一緒にバクダン焼きを食べに行くんです。今寝てしまったら、きっと貴女は目を覚まさないでしょう?だから寝ないでください。


ゆさゆさと彼女の細い体を揺さぶる。だけど彼女の意識は戻ってこなくて、ボクは部屋を見渡した。


部屋は赤く染まっていて、天井からは、まだ乾ききっていない赤い液体が、トロリと垂れている。こんな有り様、到底兄上には見せられない。ボクが悪い訳じゃないけれど、きっと怒られるのはボクだろう。だって彼女はボクの所有物だから。我が儘を言って、ボクの物にしたことぐらい、自分がよく分かっている。所有物の不始末は、持ち主であるボクの不始末。完全に意識のなくなった彼女の体を抱え上げ、同じく赤色に染まったベッドに寝かせながら思った。




「芸術は、赤色なの…」




彼女の右手に握られていた、赤色の絵の具のチューブが転がり落ちた時、彼女が寝言でそう言った。だからと言って、人の部屋を赤くしてしまうのはどうなんだろう。


胸の内で呟き、そしてこう思わずにはいられなかった。





本物の馬鹿




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