短編

□きみもにんげんじゃないか
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彼女はよく笑う。屈託のない、まるで穢れを知らぬ幼子のように。


友人達に詩音、兄上に言葉さん、と呼ばれると、その都度彼女は笑顔を浮かべる。初めて、可愛いと思って何かを愛でる、という感覚を知った。


パッと見ただけでは平凡な容貌だったが、笑うとどんな美人も霞むぐらいに輝いた。




「またね」


「うん、またね。バイバイ」




学校からの帰り道。最後の友人と別れて、彼女は一人夕暮れ道を歩いてく。ボクもその後をそっと着いていく。


ものも言わずに歩く彼女の顔に、先程のような笑顔はない。石のような固い無表情が張り付いている。他の人間より白い肌のため、石膏を削って創られた彫刻のよう。


彼女の横顔は、オレンジ色に染まっていて、彼女の長くなった真っ黒の影が、ひょろりと地面に伸びていた。


ふぅ、と彼女が短く息を吐き出したのに気が付いた。まるで何かを蔑むような雰囲気が彼女を取り巻く。


ボクはこの彼女も好きだった。


友人達といる時の笑顔の彼女も好きだが、どちらかと言えば、こちらの無表情な彼女の方が好きだ。昼間の彼女はあまりにも輝かしすぎて、悪魔のボクには近寄れない。けれど今の彼女なら、近寄りその体に触れることが出来る気がした。


兄上に一般人との必要以上の接触をきつく禁止されているから、姿を見せることすら出来ないのだけれど。


ぼんやり彼女を眺めていると、彼女が何かをボソリと呟いた。




「人間なんて、大嫌い」




小さく細い彼女の声は、確かにこの世界にこだました。思わずボクも呟く。





きみもにんげんじゃないか




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