長編

□兎の後を追い掛けて。確かそんなお話。
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「ネイガウス」



濡れたローブを、メフィストから借りたドライヤーで乾かしていると、アマイモンが隣に寄って来て、小さくそう呟いた。パッと振り返ると、すぐそこにアマイモンの顔面が。さっきまで食べていたお菓子のカスが口の横に付いていたので、メフィストから借りたままだったシャツの袖口で拭ってやった。



「ネイガウスの匂いがします。それも濡れていますし、どこか出掛けていたんですか?」



スンスンと犬のように私を嗅いで言った。



「獅郎の墓まで付き合ってもらったの」

「ボクが連れていってあげましたのに」

「結界があるから付いて来てもらっただけだよ。あんたも悪魔だから、付いてきても意味ないでしょ」

「……………」



まだ何か言いたげなアマイモンから顔を反らし、中断していたローブの乾燥を再開する。暫くアマイモンも隣にいたが、気が付くとどこかに行ったのか、部屋には私とアマイモンのペットしかいなかった。窓から夕陽が差し込んでいる。



「アマイモンは?お前のご主人、どこ行ったの?」



部屋の隅のピンクのクッションの上で大人しくしていたゴブリンに、ローブとドライヤーを片付けながら声を掛ける。ゴブリンは一度小さく唸って、首を捻るような動作をした。知らないのだろうか。



「どこ行ったんだろう」



首を傾げていると、足元までゴブリンが近寄ってきていた。どうしたの、と訊いてみると、短く吠えられた。そのまま私の回りをぐるぐる回り始める。



「遊んで欲しいの?」



その問い掛けにも短く吠える。しゃがみ込んで手を差し出す。するとやはり遊んで欲しかったのか、擦り寄ってきた。ふにふにと柔らかいような、固いような感触がした。



「いいよ。遊んであげる。ちょうどすることもなくなったし。面倒見なきゃいけないアマイモンもいないし」

「それは困ります☆」



ゴブリンを抱き上げて、一体何の遊びをしようかと考えていると、背後からメフィストの声がした。驚いて後ろを振り返る。



「今から日が沈みます。悪魔が活性化するのは夜だと、貴女自身よくご存じでしょう?アマイモンも同じです。ですから、アマイモンが馬鹿をやらかす前に回収してきてください☆」



それも含めての面倒なのですよ☆と言われればぐうの音も出なくて、渋々ゴブリンを床に下ろして部屋のドアを開ける。



「これも連れていきなさい。主人の匂いくらいは辿れるでしょう」



そう言ってゴブリンを指差した。私に降ろされた場所で大人しくじっとしていたゴブリンは、小さく唸ると足元に駆け寄る。意味は理解しているようで、こちらを一瞥すると、そのまま廊下に走り出た。



「何をぼんやりしているのです。さっさと追いかけないと、ベヒモスも見失いますよ」



メフィストの言葉に、あのゴブリンはベヒモスと言うのかと思いながらも走り出す。いつだったかに獅郎が聞かせてくれた童話のようだと思った。




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