長編

□奥村 燐。あの子だってそうだ。
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メフィストに言われた場所で立っていると、また雨が降りだした。シトシトと降り続く雨粒が、目深に被ったローブをまた濡らしていく。風も冷たく、濡れたローブが冷やされて寒い。

ネイガウスという男はいつ来るのだろうか。フルリと体を震わせる。



「貴様か」



ローブから滴る雨水を眺めていると、後ろから低い声が聞こえた。振り返ると、片目に眼帯をした男が、真っ黒な傘を片手に立っていた。どうやら彼がネイガウスらしい。



「また、悪魔の子か」



魔神嫌いだと聞いていたが、この様子だと、どうも悪魔自体快く思っていないようだ。彼の眉間に深いシワが刻まれているのを見て、内心溜め息を吐いた。



「あんたがネイガウス?」

「そうだ。フェレス卿からの命で貴様を修道院に連れていくように言われている。私も暇ではない。さっさと行くぞ」



ネイガウスは矢継ぎ早にそう言うと、私に背を向けて歩き出す。私もそれに倣って後を付いていく。少し歩いたところに小さめの車が一台停めてあった。町中を走る車を遠目に見たことはあったが、それに触れる、ましてや乗ったことなど一度もない。



「乗れ」



暫く車を眺めていると、ネイガウスがそう急かした。その声で我に返り、黙って車に乗り込む。そこでローブが濡れていたことを思い出し、流石にこのままではいけないだろうとその冷たく濡れた布を脱いだ。メフィストにはあまり外では顔を出さないように言われてはいたが、ネイガウスはどちらかと言えばメフィスト寄りの祓魔師らしいので、多分問題はないだろう。



「お前は」



車が動き出してから、不意にネイガウスが声を上げた。



「藤本神父と知り合いか何かだったのか?」



パッと彼の方を見る。幸薄そうな横顔が目に入った。



「獅郎は私の始まり」



ネイガウスの横顔から視線を窓に向けながらポツリと呟く。始まり?と言う声がした。雨は先程より激しく、大粒になっている。



「そう。あいつがいたから、私は今ここにいることが出来ているの」

「命の恩人とでも言いたいのか?悪魔にもそんな感情があるのか」



車を走らせながらネイガウスが言った。馬鹿にしたような言い方に腹が立つ。私だって好きで悪魔の、魔神の落胤として生まれたわけじゃない。



「子供は親を選べない」



思わず口に出た言葉。隣のネイガウスがこちらを少し窺ったのが分かった。



「何だ?それは」

「獅郎が言った言葉。親は親、私は私って意味だって」

「甘いな。親が親なら子も子だ」

「別にどっちだって構いやしないよ。私が悪魔の子であることに違いはないのだから」



彼はそれ以降口を閉ざし、黙って前を向いていた。私は雨に煙る町並みを、ぼんやりと眺める。

雨の中、力強い瞳の弟を思い出した。




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