長編

□魔神の娘。その言葉がいやに耳に残った。
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目が覚めると、そこはまた違う部屋だった。



「…メフィスト臭い」

「まるで私が臭いみたいな言い方をしないでください」



声がした方を振り返ると、浴衣姿のメフィストが。

辺りをグルリと見渡せば、何かのキャラクターのポスターや、フィギュア等が丁寧に並べられた棚。私が横になっていたベッドの枕元には、似たような女の子のイラストが描かれたクッションが置いてある。

いたる所からメフィストの臭いがするので、すぐにこの部屋の主がメフィストであることを悟った。

もう一度彼に目を遣ると、テレビに向かって何かしている。手元の薄桃色の塊の出っぱりをせっせと押していた。



「体の方は大丈夫ですか?」



こちらを一つも振り返りもせずに言った。

一瞬何のことかと首を傾げ、それからアマイモンに噛み付かれたことに思い到-いた-る。



「まだ貧血気味だけど、別になんとも」

「いえ、そうではなくてですね」



メフィストの言葉に、一体何のことかと首を捻る。

ベッドから降りて、歯切れの悪いメフィストに近付く。テレビの画面の中で、何かのキャラクターが戦っていた。

彼の隣に腰掛け、ふと棚のガラスに映った私と目が合った。服の首の辺りが何かで汚れている。見ると噛み付かれたときに出血した私の血らしい。触ると少しだけ指先が汚れた。



「貴女、魔神-サタン-の炎も受け継いでいるのですか?」



テレビ画面に"K.O."と出た瞬間、メフィストが突然こちらを振り向いて尋ねた。

アップテンポな音楽がテレビから流れ出す。



「…まぁ、ね」



暫くの間を開けてからそう答え、メフィストから目を反らした。



「今は炎が出ていないようなのですが、一体どうやって炎を隠していたのです?」



再びテレビの方に向き直り、口を開く。

テレビにはさっきのキャラクターの片方と、また違うキャラクターが戦っていた。



「私の祖父がレビヤタンなのは言ったけど、レビヤタンってエギュンの眷属に当たらない水の悪魔なの」

「えぇ、レビヤタンのことはよく知っています。またの名をリヴァイアサンと言い、この世の始まりに神によって創り出された太古の悪魔ですから。まぁ、あの爺にこんな孫がいたことは知りませんでしたが☆」

「一応その血も私は受け継いでいるから、その水で炎を抑えているわけ」

「あぁ、なるほど。あれも随分強力な魔力を持っていますからねぇ」



メフィストが笑う。

なんとなくそれが気に入らなくて、腰を上げた。首元の生乾きの血が気持ち悪くて仕方がない。



「ねぇ、服を借りたいんだけど」



血が気持ち悪くて、と言えば、またこちらを振り返らずにそこのタンスにシャツがあると言った。

そのタンスを開けると、真っ白なシャツが何枚か綺麗に畳まれて入っている。そこから一枚取り出し着替えた。着ていたシャツは、多分もう使い物にならないくらい血に汚れてしまっていた。



「あのさ、もう一度だけでいいから獅郎の墓参りに行っていい?連れてってくれたけど、あの騒動でちゃんと挨拶出来なかったから」



依然としてテレビに夢中のメフィストに問い掛ける。ややあってから、口を開いた。



「ネイガウスという男がいます。彼に同伴させますが宜しいですか?」

「ネイガウス?そいつも悪魔?」

「いいえ、彼はただの祓魔師ですよ。とびきり魔神嫌いの、ね。ですからあまり自分が魔神の娘であることを言わないよう気を付けなさい。さもないと、殺されちゃいますよ☆」

「…分かった」



大人しく首を縦に振った。




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