長編

□もぐもぐ。なんて不味いんでしょう。
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ただ噛み付くだけで良いと思って噛んだ。肌を食い破るつもりはなかった。

けれど噛み付いた彼女の柔肉は酷く甘く薫っていて、元々堪え性のないボクは堪らず牙を立てて血を啜った。傷口が塞がらないよう、牙を突き立てたまま。

勢いよく口の中に広がる甘い鉄の味。ゴクリと飲み込む度に沸き上がる欲望。苦痛から溢れる彼女の喘ぎ声。

全てが僕を煽った。



「アマイ、モン」



彼女のか細い制止の声が聞こえたが、もうどうしようもなかった。強く強く彼女の体を押さえ付け、その血を貪る。

そうして段々彼女の息遣いが弱々しいものになってきた時、突然ボッという音を立てて体が燃えた。



「これは…」



体中を覆う炎を、まじまじと見つめる。

ジリジリ肌が焼かれる痛みの中、ボクが見つめる先の炎の色は綺麗な綺麗な青色だった。



「シオン?」



手で炎を払ってから、青く燃えるベッドに横たわるシオンに呼び掛ける。

首筋のボクの咬み跡はもう消えていた。



「何の騒ぎ…、アマイモン!!何だコレは!?」



取り敢えず気を失っているだけの彼女を床に寝かせ、"消火"という名分で燃えるベッドを叩き壊していると、騒ぎを聞き付けたらしい兄上が部屋にいらっしゃった。

コレ、とは彼女が気絶していることだろうか、ベッドが燃えていることだろうか、はたまたそのベッドをボクが壊していることだろうか。

首を捻る。



「全部だ!」



ボクの疑問に気付いた兄上が、声を荒らげて仰る。



「はぁ、ボクがシオンを食べたいと言ったらシオンは嫌だと言ったので、甘咬みを許してもらって噛んだのですが、あんまり美味しかったものでしたから、シオンの血を飲んでいましたらシオンが気絶し、突然ボクの体とベッドが燃え出して、火を消すためにベッドはぶっ壊しました」

「何を言っているのか、サッパリ分からん」

「お歳ですか、お可哀想に」

「違う。お前の説明が下手なだけだ」



兄上は溜め息混じりにそう仰り、床に寝かせたままだったシオンを抱き上げられた。一体彼女をどうするのかと目で追う。



「取り敢えず、目を醒ますまでは彼女を私の部屋に寝かせておく。お前はそのベッドを片付けておけ」



いつも以上に冷たい声。

兄上に従うのは弟のボクにとって当たり前だが、逆らうことを良しとしないその声に、僅かの恐怖を感じたボクがいた。何故兄上はこんなにお怒りになったのだろう。



「ハイ」



兄上とシオンが部屋を出てから、足元の砕けて焼け焦げたベッドの破片を口に放り込んでみる。焦げ臭くて苦い味がした。




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