長編
□そう言うが早いか。唇に噛み付かれた。
1ページ/1ページ
「おかえりなさい」
メフィストから私に、と宛がわれた部屋に戻ると、何故かアマイモンがそこに居座っていた。バリバリとポテトチップスの袋を抱え込んで頬張っており、彼の周りには同じ袋が幾つも空の状態で散らばっている。
ヒョイとその内の一つを持ち上げると、その空袋から飴を包んでいたであろう透明なセロファンが、ポロポロと幾つか落ちた。中を見ると同じようなお菓子のゴミが大量に入っている。
他のものも大体同じであろうことは見ずとも分かった。
「ねぇ、ここ、私にって宛がわれた部屋なんだけど。どうしてあんたがいる訳?」
黙々と手と口を動かしているアマイモンに声を掛ける。
すると、クルリとこちらを振り返った。口は依然としてモゴモゴと動いていた。
「ふぁい。はにふえが…今日からここで君と一緒に大人しくしているように、と仰ーおっしゃーったので」
口一杯の物を飲み込み、何でもないようにそう言った。食べかすが口周りに付いていて汚い。手に持っていたローブの裾で口周りを拭ってやる。
「あんたの殺風景な部屋は?」
「片付けられました」
「メフィストに?」
「ハイ。なので今日からはここがボクの部屋でもあります」
成る程。面倒を全て私に押し付けるつもりなんだろう。見ている限りでは手を焼いているようだし。
まぁ、面倒を見るのは約束の中に含まれているのだから、別に構わないのだが。
「ゴミを撒き散らすのはやめて」
「どうしてですか?」
「誰が片付けるの」
「君でしょう?」
「私はそんなことしない。面倒を見ろとは言われたけど、あんたの使用人になれとは言われてない」
そう言って、手に持っていた空袋を投げ捨てる。中のセロファンがポロポロと溢れながら落ちた。
それを一瞥してから、ベッドに腰掛けた。そのままボスリと横になる。
「シオン?寝るんですか?」
その体制でぼんやりしていると、ふと視界に入ってきたアマイモンが言った。それに一言違う、とだけ答えて目を瞑る。小さく「寝るんじゃないですか」と言う彼の不満げな声が聞こえた。
もう一度違う、と言うと、ギシリという音と共に体が少しだけ沈んだ。
「…何のつもり?」
「何だと思います?」
目を開けるとすぐ目の前にベッドに手を着くアマイモンの腕が見え、首を上に向けるとアマイモンの顔が近くにあった。体勢的に苦しくなって、横に向けていた体をクルリと上に向けた。
「…私は使用人じゃあないし、ましてや性欲処理機でもないから」
</>