長編
□悪魔の屋敷に着く頃に。空は泣き止んだ。
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ざあざあと降り頻ーしきーる雨の中で、メフィストがピンクの悪趣味な傘を振り回す。私はそれを十数歩後ろからただ眺めていた。
周りには黒いコートを着込んだ男たちが数人いて、皆一様に口許を梵字の描かれた布で覆っている。中には腰からタブレットを下げている者もいて、明らかに異様な様子だ。私は獅郎の葬式に行くと言われて来ただけ。こんな話、聞いていない。
メフィストに問いただそうとも、こう人が居ては声も掛けられなくて、ただ事の行く末に一抹の不安のようなものを感じた。
目を周りの男たちから外し、メフィストの奥で彼と対峙している少年に向ける。
黒く短い髪に少しつり上がった青い瞳。黒いスーツをきっちり着込んだ彼は、獅郎の墓標の前に佇んでいた。
彼をどうするつもりなのかと黙って話を聞いていれば、彼を、奥村 燐を殺すと言うのだ。
どういうことなのかさっぱり分からない。私はメフィストから彼と接触するように言われているのに、殺すとは一体。
「仲間にしろ!」
そろそろメフィストに食って掛かろうとした瞬間、奥村 燐が叫んだ。それから自分はサタンの息子じゃないだとか、サタンを殴るだとか、そんなことを大きく力強い声で言う。
途端にメフィストが大口で笑い出した。
張り詰めていた空気が崩れると、馬鹿らしくなってきたので、先に車に帰らせてもらう。いい加減このローブも脱ぎたい。人前では絶対に顔を出すなと釘を打たれており、目深ーまぶかーに被ったフードが鬱陶しいことこの上なかった。
「獅郎、」
車に戻り、窓ガラスを滑り落ちていく雨粒を眺めながらポツリと呟いた。
「やはり戻っていましたか」
ローブをカッパ代わりに着ていた私と違い、傘としての機能をほとんど期待出来ない傘を差していたメフィストは、頭の先から爪の先までびしょ濡れだった。風邪を引かないのかと聞けば、1・2・3と三つ数えて服を変えていた。
「どうでしたか?」
「何が?」
車が走り出したのと同時に、メフィストがそう切り出した。なんのことかと首を捻れば、奥村 燐についてだと言う。
「さぁ、よく分からない。ただ、ああやってハッキリ自分の意見を言う奴は好きかな」
ぼんやり雨に煙る町を眺めた。
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