長編

□空は鈍色。雲が涙を溢していた。
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目の前に女の子がいた。

清潔感のある真っ白なシャツの首元をゆったりと開けて、赤と黒のストライプに白い梵字の描かれたネクタイを緩く締め、ピンクのスカートと太股まである黒い靴下。

これは正十字学園の制服らしい。

そしてその服を着ている目の前の女の子は、鏡に写った私だった。

風呂に入ると、ボサボサでいつも絡まっていた髪を温かい湯で解ーほぐーし、ハサミで適当な長さに切り揃えた。少し不揃いだが、前よりは見られる頭になったと思う。

垢の取れた肌は、本当に自分の物だろうかと疑いたくなるほど白い。きっと、人目を避けて路地で生活していたためだろう。

ぼろきれの布を巻き付けただけのような格好しかしてこなかったからか、こうしてきちんと服を着ている私は何だか可笑しい。白とピンクのメフィストのスーツよりも、ずっと滑稽に思えて仕方がなかった。



「ほう、見違えましたな」



鏡の向こうにあった扉、つまり、私の後ろの扉が開き、そこからメフィストが顔を出して言った。



「約束、忘れないでよ」

「えぇ、こちらからの条件なので勿論ですとも」



その言葉を聞きながらまだ乾ききっていない髪を、白く綺麗な柔らかいタオルでゴシゴシと乱暴に拭く。貴女、女性でしょう、と言う声は軽く聞こえないフリ。



「…とにかく私は、サタンの娘であることを隠してもらう代わりに、アンタの手駒として言うこと聞いていればいいんでしょ」

「簡単に言うなら、そういうことです☆ちょうど、塾内でも自由に動かせる駒が欲しかったんですよ。と言っても、貴女は塾に入りませんが」



メフィストに提示された条件は二つ。

一つは祓魔塾の一年メンバーと顔見知りになること。奥村 燐という男子には特に仲良くしておくよう言われた。

彼も私と同じくサタンの落胤らしく、私の腹違いの弟にあたるのだそうだ。私の正確な生まれは知らないが、夏の季節に生まれたらしいので、冬の季節に生まれた彼は私の弟。サタンの青い炎を受け継いでいると聞いた。

二つ目の条件は遊び相手。

誰のかと言うと、アマイモン。適当に学園内の物を壊さないよう見張ることが主な仕事らしい。

なんでもアマイモンが何故か私を気に入ったようで、メフィストに我が儘を言ったようだった。



「それで、取り敢えず私は何をすればいい?アマイモンの面倒?」

「いえ、アマイモンは今、奥村君について我らの父上にご意見を仰がせに、虚無界に戻しました。貴女には私と一緒に出掛けてもらいます」

「出掛ける?出掛けるって、どこに?」



簡単な疑問を口にすると、黒く長いフード付きのコートらしき物を渡してきた。大人しくそれを受け取って羽織ってみると、それはコートと言うよりはどちらかと言えばローブに近い物で、裾は膝下くらいまであった。



「今日は葬式に行くんです。貴女も知っているでしょう?藤本 獅郎神父が亡くなったことを」

「獅郎の、葬式…」



思わずメフィストから目を反らした。

鏡の中の私と目が合う。

酷く無表情な顔をしていた。




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