長編

□ぎしり。ベッドが軋んだ音がしました。
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兄上に言われて、女をボクの部屋に運ぶ。

女は時折顔を僅かにしかめ、それから何事かを小さく呟いていた。

ボクの部屋は、基本的にお菓子とベッド以外何もない。

このベッドですら、どうせ寝ることなど滅多にないのだから、と置くつもりはなかった。兄上に殺伐すぎると言われたので今は置いているが。

そのベッドに女を横たえて、彼女の横顔を眺める。

初めて会った時にも思ったことだが、この女は一体どんな生活をしてきたんだろうか。

最初に"遊び"を仕掛けた時、女が身に纏っていたのは、決して服とは呼べないただのボロ布。そこから伸びる手足や顔は煤にまみれ、髪は埃でぐしゃぐしゃ。ざんばら髪の合間から垣間見た赤い瞳だけがギラギラと輝いていて。その姿はさながら野良犬のようだった。

指でその煤けた顔をなぞると、爪が当たったのか、プクリと赤い血が女の頬に浮かぶ。ほんのり甘い香りがして、唇を近づけその赤色を舐めとる。まるで綿菓子のようなふんわりとした甘みと、錆びた鉄のような食欲をそそる匂いが、ほんのりした。もう一度舐められないかと傷口を見ると、既に綺麗さっぱりなくなっていた。



「ウーン、もう一度傷を付けたらダメですかね」



顎に手を添え、首を傾げる。

素直に女の血は美味かった。が、多分もう一度舐めれば全部食べてしまいたくなるのは、自分のことなのでよく理解している。そうすれば、きっと兄上に叱られるのは目に見えていた。

けれど欲望に忠実なボクの体は女の血を欲してやまない。



「しろ、う…」



さて、どうしようかと首を捻っていると、女がポツリと呟いた。

しろう、と言うと、兄上の知り合いの男が思い浮かんだ。この女はアイツと知り合いか何かなのだろうか。

ぼんやりそんなことを思っていると、またふわりと甘い香りがした。

一体何がこうも鼻を擽るのかと女を見れば、女の目尻から透明な何かが溢れていて、それがとても甘く薫っている。

血がダメでも、これなら怒られないだろう。別に喰う訳でもないし。

そう考える前に女の目尻に口付けて、その透明を舌で拭う。甘かったが、少しだけしょっぱかった。



「しろう、」



そう呟く度溢れる液体を舐めとりながら、なんとなくボク以外の名前を呼ぶのに腹が立って、



「ボクはアマイモンです」



女の柔らかい唇に噛み付いた。




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