長編
□その目はまるで。子供のようだった。
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「おはようございます☆」
「おはようございます」
目を醒ましてすぐに聞こえた二つの声。
グルリと目だけをそちらへ向けると、相も変わらず白色のスーツにピンクのスカーフを着込んだ男。その隣ではアマイモンが飴を口で遊びながらいた。
なんだ、やっぱり悪魔絡みじゃないか。
部屋はまた違うところのようで、少し薄暗い。空気が澱んでいるのか、息苦しく冷たいもので肺が満たされる。
部屋にはあまり生活感のあるものは全くと言っていいほど何もなかった。ただ広い部屋に、ベッドだけがポツンと置かれていた。
物も言わずに起き上がり、ふぅ、と小さく溜め息。体の痛みはなくなっていた。
「溜め息を吐きたいのは此方ですよ。女性がシャツ一枚で外に出るものじゃありません」
呆れた、と言いたげに、男が肩を竦めて見せる。
なら、ちゃんとした服を着せておけ。
そんな私の心を見透かしたかのように、男は愉快げに口を開いた。
「まずは改めてご挨拶をさせていただきますが、私の名はメフィスト・フェレス。昨晩貴女に名乗った名は、実は表向きの名でして、本名ではございません。しかし、貴女にはどうやら本名の方が何かと都合が良さそうですので、私のことはメフィスト、とお呼びください」
紳士然-ぜん-たるように恭-うやうや-しく頭を垂れるメフィストに、よくもまぁ、回る舌だと胸の内で毒を吐く。アマイモンはこの話にまるで興味がないのか、今度は何かのお菓子をバリバリと頬張っていた。
メフィスト・フェレス。
ふとその言葉が引っ掛かり、記憶を辿ってやっとアマイモンとの関係に気付いた。
「あぁ、八候王と異母兄弟の、」
納得して小さく呟くと、メフィストがおや、と言った。
「私のことをご存知で?」
何かと彼の方を見ると、不思議そうに首を傾げている。
それから、思い出したように口を開いた。
「そういえば、まだ貴女のお名前を伺っておりませんでした。貴女が何者かも含めてお話くれませんかねぇ?」
ふむ、と一度考え込んでから、どうせ知った上での茶番だと結論を出し、口を開く。
長く水分を採っていない唇は、少しかさついていた。
「名前は雨宮 シオン。多分知ってると思うけど、悪魔の血が混じっている」
「混じっている、ということは、貴女は純血の悪魔ではないのですね?」
「私の祖母は人間。祖父は古代の悪魔、レビヤタン。母はその二人の血を継いだ半魔」
そこで一度句切る。するとすぐに父親は人間ですか、とメフィストが言った。
それに今から言うと答え、大嫌いな名前を口にする。
「父に当たるのは、魔神サタン。私はサタンの落胤だ」
メフィストの目が見開かれた。
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