長編
□羽根のようです。と心の中で呟きました。
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「まったく、随分とまぁ、無茶をなさるお嬢さんだ」
溜め息を一つ吐き出して、男―メフィストは呟いた。
彼の足元に倒れ伏しているのは、右手に刀、左手に拳銃を握ったまま気を失った一人の少女。
男物のYシャツを一枚羽織っているだけで、その裾からあられもなくすらりと伸びた手足が覗いていた。その細い腕や太ももには、ガーゼや包帯が巻かれている。
そしてその手や足と共に、まるで獣の尾を思わせる黒く長いものが、ひょろりと顔を見せていた。
「これは、"悪魔の尻尾"ですね。兄上、やはり彼女は」
メフィストの後ろから、アマイモンが覗き込むようにして言った。
"悪魔の尻尾"、それはその名の通り悪魔の身体的特徴であり、そして普段から隠さねばならぬ程の弱点である。
それは、彼女が純潔の人ではないことを示していた。
「人間ではないのは確かだ。が、私やお前のように純粋な悪魔とも言い切れん。奥村君のような、どこぞかの悪魔の落胤ーらくいんーである可能性もあるからな」
クツクツと喉の奥で楽しそうに笑い、それからアマイモンを振り返った。
「彼女はお前が連れてきた。次に目を醒ますまでは、お前が管理しておけ」
「ハイ。分かりました」
抑揚のない無感動な声で返事をする。
そのアマイモンに一瞥をくれてから、メフィストは仕事がまだ残っていると言って、そのまま煙と共に消えてしまった。
一人残されたアマイモンは一度、ぐったりと地に横たわる少女を見下ろす。
貧血でも起こしているのか、煤や垢にまみれた彼女の頬は酷く青白い。
優しく吹く風が、彼女の黒くて長い不揃いな髪を揺らす。
「(息をしていなければ、まるで死んでいるみたいですね)」
そう思ったのはアマイモン。
以前、メフィストに口酸っぱく言われたように、少女の小柄な体を横抱きで持ち上げ、その青ざめた顔を覗き込む。
抱え上げた少女の体は、驚く程に軽かった。
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