短編

□雨道
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それはもう酷く裏切られた気分だった。朝のニュースで、今日は全国的に気持ちの良い快晴となるでしょう、と美人な天気予報士の女の人が言っていたのに。どこが気持ちの良い快晴なんだか。バシャバシャと足元で音を立てる水溜まりに舌打ち一つ、寮までの雨道を走る。


地面で跳ね返った水飛沫で、靴下はびしょびしょ。踏み込む度靴の中で変な感触と音がした。あぁ、ついていない。そうぼやかずにはいられなかった。普段なら折り畳み傘を鞄の中に常備しているのに、今日に限って邪魔だからと出してきてしまったのが失敗だった。


走りながら空を少し見上げる。昼間は雲一つないほどに晴れ渡っていた空は、まるで嘘のようにどんよりとした雲に覆われ、ザアザアと大きな雨粒を落っことしていた。しかも、私の苛立ちを嘲笑うかのように時折ゴロゴロと笑い声をあげている。


糞ったれ。女子にもあるまじき言葉を吐き捨て足を止める。頭の先から爪の先までぐっしょり。鞄は防水性の布で出来ているから大丈夫だとして、下着は完全にアウトだった。


こんなシャワーのように雨が降る中、もう走っても疲れるだけだ。ゼーゼー肩で息をしているのを深呼吸で整える。その間も雨は降り続け、やっと息が整ってきた頃、薄暗い視界に赤っぽいブーツが見えた。一体誰かと顔を上げる。




「こんばんは。言葉さん」




理事長がいた。ふざけた柄の悪趣味なこうもり傘をさしながら、ふざけた格好の理事長がふざけた様子で言った。


何故私の名前を知っているのか、とかどこから現れたのか、とか色々聞きたいところだったが、突っ込みはひとまず置いておく。こんなふざけたことばかりの理事長でも、あいさつされたので取り敢えず私もこんばんは、と返した。すると理事長は胡散臭い笑顔をしたかと思うと、そのふざけた柄の悪趣味な傘を私の手にしっかりと握らせた。


は、え、ちょっと意味が分からんのだが。握らされたままポカンとしていると、明日の放課後、理事長室にまで貴女が持ってきてくださいね、とウインク。語尾にはしっかり星が飛んでいて、正直かなりドン引いた。おっさんの星が飛んだウインクなんか見て、何が楽しいのか分からない。しかもさりげに"貴女が"のところを強調していて余計に意味が分からん。




「それではお気を付けて」




気を付けろと言うのなら、寮まで送ってくれれば良いものを。そうすれば、明日の放課後にわざわざ理事長室にまで行く手間がなくなって楽だったのに。


やっと我に返ってそう思った頃には、理事長はどこにもいなかった。はぁ、と溜め息一つ。また寮までの雨道を歩き出す。ふざけた柄の悪趣味なこうもり傘をさして。





雨道




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