頂き物

□こんな恋物語
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「…」

「もしゃもしゃ」

「…」

「もしゃもしゃ」

「あの」




先ほどから自分の膝の上に乗ってお菓子を食べ続けている少女に声をかける
だが彼女は目の前の机の上にある書類を見ながら口を動かすだけで返事をしない
仮にもここは理事長室で、そして理事長であるメフィストの膝に乗っている少女は祓魔塾生だ

初めて彼女がこの理事長室に来たのは奥村兄弟と一緒に歩いているところに声をかけてからが始まりだ
ちょうど月の小遣いを燐にあげる日で、別に隠すほどのことではないから一緒について来ているのも構わず理事長室へ招待したのだ

それから祓魔塾が終わると決まってこの理事長室へノックもせずやってくる
ソファに座ってこちらをずっと見ているから最初は何かと思っていたがこれはお菓子を出せという合図なのだと確信した
話をかけても「はい」か「いいえ」しか答えない少女相手に行き詰ってお菓子と紅茶を出して仕事にかかれば無言でそれを食し始めているのだ

きっとここをお菓子をくれる良い場所としか思っていないのかもしれない


だが今日はいつもと違う
先ほどまでいつものようにソファでお菓子を食べていたのに今ではメフィストの膝の上で。
メフィストが後ろから包み込むようにして彼女越しに書類をやっているのだ





「何故、ここで食べるんですか?」

「…」

「というより、いつも貴女はここに来てますがここは」

「詩音」

「はい?」

「あなた、じゃない。詩音って名前がある」

「…」




初めて「はい」と「いいえ」以外の返答をもらって驚いた
だがそれよりもこの状況は一体…




「詩音さんは、どうして毎日理事長室へ?」

「ここが居心地がいいから」

「それは光栄ですが…お菓子ならソファで召し上がれますよ」

「私は別にお菓子を食べに来てるんじゃない」

「?では、何をしに」

「わからない」

「…」



ポッキーを食べ終えた詩音は今度はポテチへ手を伸ばす
封を開けてお菓子を食べ始めた詩音に何故か自分の弟を思い出した

とにかくこのままでは仕事がやりずらい…




「理由がないようでしたらここから退いて下さると助かるのですが」

「…」

「仕事がやりずらくて…」

「わかった」




案外物分かりがよいと思いながら詩音がソファの方へ歩いて行くのを見送る
だが彼女はソファに腰をかけるのではなく持ってきていた鞄を持ってそのまま部屋を出て行こうとしていた

メフィストは止める理由なんてないはずなのに何故か口を開く



「ど、どこへ?」

「?理由がないから、帰る」

「あ、ちょッ…」




呆気なくバタン!と閉められた扉を見つめることしかできず、再びペンを握った
机の上に散らばったお菓子の屑を横目に書類をやりながらもどこか気持ちが落ち着かないもので。

でもきっと明日になれば何事もなかったかのようにやってくるのだろう


















「来ない…」





あれから一週間くらい経った
なのに詩音はここへ来るどころか廊下ですれ違っても見向きもしない
祓魔塾の教室へ訪れたときだって教科書を読んでいてメフィストに目も向けなかった

まさか別にお菓子をくれるいいところを見つけたのかと燐に訪ねてみたが彼は「詩音は何を考えてるかわからねえやつだから」と言うだけで全然参考にならない


何故あんな少女に気を取られるのかはメフィストでもわからないが、目の前のその扉がノックもされずに開けられてそこから当たり前のように訪れていた詩音の姿を待っているのだ




「…らしくない」



理由がないなら退けなんて言わなければこんなに考えなくても済んだのに、なんて後悔しながら額を押さえていると理事長室の扉をノックされた
ノックをしたということは詩音ではないことが明白で、メフィストは気だるそうに返事をする




「はい」

「失礼します」

「!」





理事長室へ入ってきたのは間違いなく詩音で。
何故ノックをしたのか、とか、どうして一週間も来なかったのかとかどうでもいい理由を知りたくて席から立ってしまった
そんなメフィストにいつもの無関心そうな表情が向けられて。





「理由、見つけてきました」

「はい?」

「理事長室へ私が訪れる理由を、フェレス卿は知りたがっていたでしょう。だから私なりに答えを見つけて来たんです」




こちらが色々な理由を詩音に聞きたいというのに彼女は今、目の前で理由を見つけて来たと言った
詩音の唇がゆっくりと開いて言の葉が宙を舞う







「私、フェレス卿が、好きみたいです。」







こんな恋物語
(すッ……!?)
(はい、好きです)
(い、意味をわかって使っていらっしゃるんですか!?好きというのは…!)
(フェレス卿、顔が赤くて可愛いですね)
(!)
(大丈夫です、私がフェレス卿を守れるくらい強い祓魔師になります)
(違う!立場が違う!逆ですよ!私は守られるのではなく守る側で…!!)
(?フェレス卿は黙って私に守られていればいいんです)
(男前すぎるのにもほどがあると思いますよ!!)


****


素敵サイトのれいじ。 様から頂きました。

無口で男前だなんて…!まさに俺得です!
そして振り回されるメフィストがまたなんとも。

みんとさん、ありがとうございます!


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