捧げ物

□星空と哲学者と詩人のお話
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私たちが見えている世界は、常に過去のものだと言った人がいた。


誰だったかまではよく覚えていないが、その言葉に酷く心を打たれた。


私たちは常に、目から脳へ見えている物を伝えているのだから、確かに私たちが見ている物はほんの刹那であっても過去の映像。


けれどそうと思わずに生きている人は多い。


私もその大勢の内の一人だった。


あの空の星だって、本当は数百万年も前のその星の断末魔なのに。


最後の絶叫を眺めて、地球の恋人たちは抱擁し、キスを交わす。


こうして考えれば、私たちの周りには、現在と言う瞬間は無いように思えた。





「詩音は突然哲学者になりますね」





今の今まで大人しくマシュマロをもぐもぐしていたアマイモンが、無感動な声で言った。星と月の明かりに照らされた彼の顔は、影が普段より濃くて少しホラーチックだ。


私とアマイモンは今、星を見るために屋根に登っている。アマイモンは星に興味がないのか、お菓子ばかり食べていた。言葉で端的に表すなら、『星よりお菓子』。


そんな彼が私の独り言に突然声を上げたものだから、少し驚いてしまった。





「哲学者って、そんな難しいことを言ったつもりはないんだけど」





少し苦笑。





「ボクにとっては十分難しいですよ」





相も変わらずの見事な無表情っぷりで言われては、何だか言葉を返しにくくて。うーん、そうかなぁ、とぼやきながら、ゴロリと屋根に寝転んだ。


視界から文化的なものが消え、真っ黒の空とキラキラ輝く星とまん丸な月、それからアマイモンだけが見える。


今まで散々言っておきながら、やはりあのキラキラ綺麗に輝く星々が、過去の光だなんて俄-にわか-には信じがたい。


けれど現実はそうであって、覆ることは多分ない。


星を眺める体に時折吹き付ける風は、随分と冷たい。少し寒くなって体を震わせていると、アマイモンも隣にゴロンと横になった。


暫く2人でぼんやり星空を見つめる。


寒いなぁ、そろそろ戻ろうかな、などと思っていたら、ふと思い出したようにアマイモンが口を開いた。





「…あの星の光が過去の物でも、ボクらが見ている物に現在がなくても、こうして触れていれば、それで互いの今を共有出来ます」





そう言って、私の左手に自分の右手を絡めて見せる。アマイモンの低めの体温が掌越しに伝わってきて、じんわり温かいような気持ちになる。





「…もし私を哲学者だと例えるなら、きっとアマイモンは詩人だね」





私は笑いながら言った。





星空と哲学者と詩人のお話




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秘密 様、こんな私と相互リンクしてくれてありがとうございます!!
甘はこんな感じが好きな詩織です。
最終的に手を繋ぐのを目標に書きました。
秘密 様のところのアマイモンとはまた少し気色の違うお話かもですが、愛は詰まっています!!(キリッ
とにもかくにも、相互リンクありがとうございました!

秘密 様の素敵サイト へ ん た い。

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