捧げ物
□星空と哲学者と詩人のお話
1ページ/1ページ
私たちが見えている世界は、常に過去のものだと言った人がいた。
誰だったかまではよく覚えていないが、その言葉に酷く心を打たれた。
私たちは常に、目から脳へ見えている物を伝えているのだから、確かに私たちが見ている物はほんの刹那であっても過去の映像。
けれどそうと思わずに生きている人は多い。
私もその大勢の内の一人だった。
あの空の星だって、本当は数百万年も前のその星の断末魔なのに。
最後の絶叫を眺めて、地球の恋人たちは抱擁し、キスを交わす。
こうして考えれば、私たちの周りには、現在と言う瞬間は無いように思えた。
「詩音は突然哲学者になりますね」
今の今まで大人しくマシュマロをもぐもぐしていたアマイモンが、無感動な声で言った。星と月の明かりに照らされた彼の顔は、影が普段より濃くて少しホラーチックだ。
私とアマイモンは今、星を見るために屋根に登っている。アマイモンは星に興味がないのか、お菓子ばかり食べていた。言葉で端的に表すなら、『星よりお菓子』。
そんな彼が私の独り言に突然声を上げたものだから、少し驚いてしまった。
「哲学者って、そんな難しいことを言ったつもりはないんだけど」
少し苦笑。
「ボクにとっては十分難しいですよ」
相も変わらずの見事な無表情っぷりで言われては、何だか言葉を返しにくくて。うーん、そうかなぁ、とぼやきながら、ゴロリと屋根に寝転んだ。
視界から文化的なものが消え、真っ黒の空とキラキラ輝く星とまん丸な月、それからアマイモンだけが見える。
今まで散々言っておきながら、やはりあのキラキラ綺麗に輝く星々が、過去の光だなんて俄-にわか-には信じがたい。
けれど現実はそうであって、覆ることは多分ない。
星を眺める体に時折吹き付ける風は、随分と冷たい。少し寒くなって体を震わせていると、アマイモンも隣にゴロンと横になった。
暫く2人でぼんやり星空を見つめる。
寒いなぁ、そろそろ戻ろうかな、などと思っていたら、ふと思い出したようにアマイモンが口を開いた。
「…あの星の光が過去の物でも、ボクらが見ている物に現在がなくても、こうして触れていれば、それで互いの今を共有出来ます」
そう言って、私の左手に自分の右手を絡めて見せる。アマイモンの低めの体温が掌越しに伝わってきて、じんわり温かいような気持ちになる。
「…もし私を哲学者だと例えるなら、きっとアマイモンは詩人だね」
私は笑いながら言った。
星空と哲学者と詩人のお話
****
秘密 様、こんな私と相互リンクしてくれてありがとうございます!!
甘はこんな感じが好きな詩織です。
最終的に手を繋ぐのを目標に書きました。
秘密 様のところのアマイモンとはまた少し気色の違うお話かもですが、愛は詰まっています!!(キリッ
とにもかくにも、相互リンクありがとうございました!
秘密 様の素敵サイト へ ん た い。
</>