短編
□悪魔と独善主義少女
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「君はおかしなニンゲンですね」
「そうかしら?」
「エエ、そうですよ。悪魔と一緒にいたがるニンゲン、ましてや祓魔師なんて君ぐらいなものでしょう」
「それは確かにそうかもしれないけれど」
「けれど?」
「どうしてそれがおかしいことなのかが分からないわ」
「悪魔は祓魔師によって殺されます。祓魔師は悪魔を殺します。その両者が仲良くお喋りなんて、どう考えても普通じゃあないでしょう。むしろ、禁忌と言っても過言じゃありません」
「それを言えばフェレス卿だって悪魔じゃない。なのに彼は祓魔師と仲良くやってるわ」
「兄上は例外ですよ。虚無界に魂を囚われているボクら悪魔は、そこから離れたがらないものです。しかしその点、兄上の場合、魂云々ではなく、ただ享楽を貪ろうという欲が他より大きいので、それを満たすためにこちらにいらっしゃるんです」
「フェレス卿のことは分かったけれど、それでもやっぱり私は間違ったことをしているつもりはないわ」
「ウーン、本当に変なニンゲンです。食べられたいんですか?」
「別に食べられたい訳じゃないわよ。ただアンタの隣にいるのが心地好いの」
「しかしボクのような悪魔相手に感じるそれを、ヒトは"道を誤る"と言うのでは?」
「まさか。私は正しいもの。道を誤ってなんかないわ。間違っているのはそう言うアイツらよ」
「アイツら?」
「アンタの言う"ヒト"のこと」
「君も"ヒト"でしょう」
「いいえ、私は人間よ。サルじゃない」
「君は愚かなのか賢いのか、よく分かりません」
「私は愚かでもないし、賢くもないわ。ただ自分が正しいと思ったことをするだけ。そして私こそが一番正しいのよ。他のヤツらが何を喚こうとそれが事実。三賢者ーグリゴリーや正十字騎士團のお偉い様なんて、ただのもうろくどもの寄せ集めよ。正義を盾に偽善の声しか上げられないアイツらが私は大っ嫌い」
「そんなことを言って、誰かに聞かれでもしたらどうするんです。尋問会に連れていかれますよ?」
「別に構やしないわ。そうなったら同じことを言うまでよ。私はアンタたちみたいな偽善者が大嫌いだって」
「やっぱり君は変です」
「私を変だと言うのなら、アンタだって十分変よ。食べようかと言いながら食べないし、さっきは私のことを案じていたじゃない。それこそアンタが言う"道を誤る"ということなんじゃないの?」
「君のことは美味しそうだとは思いますが、けれど食べてしまえば君は動かなくなるんでしょう?ボクは君が思っている以上に君のことを気に入っているんです。"道を誤る"こととはまた話が違う。尋問会なんかに連れていかれては、下手をすれば君と話せなくなるじゃないですか。ボクは君と話していたい」
「ふふ、ほらやっぱり私は正しかった」
悪魔と独善主義少女
独善主義…他人の利害や立場を顧みず、自分一人だけが正しいという考え方
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