【短編集】

□君の居る世界は鮮やかに色付く
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兄と慕う人物が居なくなった時
僕の世界は白黒になった。

見るもの全てがモノクロで
先の未来など想像も出来ない。

けれど進むべき道を教えてくれる人がいて、僕はずっと歩み続ける事は出来た。

良いか悪いかなんてモノはどうでも良くて、ただ必要とされるのならそれで構わない。

必要としてくれる存在さえいれば、この白黒の世界でも生きていけるから。

明るい未来など、色付く世界など望んではいない...

いや、たった一度だけ望んだ事がある、望んだけど叶わなかった。

だから、今、僕の世界は全てが白黒なのだ。


君の居る世界は鮮やかに色付く


「サイ!なぁー聞いてくれよーサイ!」

隣に居るんだからそんなに大きい声を出さなくても聞こえている、だが聞こえていない振りをしている。

「なーなーなーサイってば!」

返事をしなければ何度も自分の名前を呼び返す相手に一々反応などしてはやらない。

任務以外で他人と馴れ合う気など此方には無いのだ。

「聞こえてるんだろ?返事くらいしろよー最近スッゲー感じ悪いぞお前?」

聞こえてると分かっていて、返事がないのなら、相手の機嫌が悪いとか、相手にしたくない時なのだと思考が回らないのだろうか何故か無性に苛々する。

「...聞こえてるよ、それで、何?」
「んだよー聞こえてんじゃねーか!」

頬に空気をめいいっぱい溜めて、怒ってますアピールをしているが、折角此方が話を聞く気になったのだから話を進めて欲しい。

だが、相手はそう簡単に思い通りに行く相手ではないので、心底面倒臭いが少しだけ機嫌を良くしようと試みる。

「ごめん、ちょっと考え事をしてたから煩い声に邪魔されたくなくて」
「煩い声ってなんだよ!」

機嫌を良くする筈が、益々悪くしてしまったようだ。

「ったく!まー人間そう言う時もあるか!考え事してる時って静かに考えたいもんなー!」
「そうなの?」
「は?そうだろ普通!」
「普通...馬鹿なナルトでも静かに考え事をするんだね、驚きだ」

思った事を口にすれば、今のは失言だったのだと気づく。

「おっまえ本当っっムカつくってばよ!」

最近何かと言えばナルトとツーマンセルで任務を任される事が多い。裏側で遣り取りされて居るのは知っているのだが、2人きりになると心がざわつく事が多く、あまりツーマンセルはしたくないのだが。

今日も、任務先までナルトと2人きりで先程から自分が苛ついているのが分かる。だから会話などしたくないと言うのに相手はお構い無しに僕の領域に足を踏み入れてくる。

「ったく!そんなだから他の女達がお前に近寄れねーとかって俺に相談してくるんだぞ!」
「え?」
「え?っじゃねーし!本当こんなズケズケ物事言う色白男のどこがいーのかね?イノはイケメン!とか言うけどよー顔だったらシカマルのほうが、気合いれた時だけならイケメンなのに!イノは分かってないってばよ!」

急に知らない女達の中で自分が話題にされてると知った。

何故自分などが女達に注目されているのだろうか?普段接触など殆ど無いのに。

「あ...何で自分なんかとか思ってる顔だな?俺だって何でサイなんかーって思ってるけどよ...好きな人は今居るのかとか、好きな食べ物が知りたいって同期や後輩に頼まれたら断れなかったんだってばよ!」
「...へえ以外、ナルトって結構お節介焼きなんだ」
「なっ!?お節介って...いや...あの...良心ではなくラーメンゴチなった手前断れなかった?みたいな?」
「それ僕に言っていいの?ラーメン如きで自分の情報売ると思う?」
「あ"...あははー今のは聞かなかったことに...」
「無理」

本当こんな感じで余計な事を言ってしまうから、一緒の任務でも結構ナルトの失言でサポートする場面も多い。

だからきっと無性に苛ついてしまうのかもしれない。

ナルトと言う人物は、表裏が全く無くて今迄僕が関わってきて大人達や対峙してきた敵には居ないタイプだった。

初めて彼女と言う人物を知ったのは書類上で、ダンゾウ様に、この先根が裏で活動していく中で、ナルトは大事な表生き駒だと言われた。

そして、新生7班として加わった時からずっと彼女の偵察を命令されている。

生き駒のナルトは、サスケを誘き出す1番の餌と書類に書かれている通り、7班に加わった直ぐ後、里抜けした彼を見つける事が出来た。

サスケ経由で大蛇丸にも会え、ダンゾウ様の意思を伝える任務も遂行出来た。

そして、任務を完了しナルトに合流すれば、里抜けしたサスケとナルトが重なる様に崖の上で立ち並んでいた。

ナルトの顔は見えなかったが、サスケの顔を確認する事は出来、ナルトへの執着心が異常だと直ぐに気付く。

全てを捨てて、里を抜けたのにナルトへの執着心は捨てていないのだと、まざまざ僕に見せ付けるようにして去って行った。

まるで、コイツは自分の物だと言うように、何故僕にそんな視線を向けたのかその時は分からなかった。

ナルトの偵察をし始め、屋根の上からナルトと言う人物を観察していた時、同期と笑いあい歩く姿を見て、忍びの世界の歪みなど微塵も知らず笑っている様に見えた。

その後、一緒に行動を共にしてみれば、ナルト言う人物は、多くの者に好かれ愛され大事にされている事を嫌でも実感した。

自分とは全く逆の、日の当たる忍の世界を生きている。そう思った。

そして白黒の忍の世界の中でしか生きれない自分に、初めて苛立ちを覚えた。

でも、自分を変える術など知らないし、変わりたいとも思わない。

だから、このままでいいと思った。

「せめて、もっと愛想良くしたらいいのに!」

変えられない変えないと誓った直後、軽々と自分を変えろと言うナルト。本当にナルトと言う人物は自分とは正反対だ。

「じゃぁ聞くけど、急に僕が誰にでも愛想良くなったらどうなるの?」
「えー俺はちょっと気持ち悪いと思うけど...他の女子は喜ぶんじゃねーの?何かお前ニコニコしてる時は愛想良さそうに見えるけど口開けるとソレだろ?見た目に騙されるんだとーあとニコニコしてて何考えてるか分かんねーって意見もあったってばよ」
「何それ?1人で盛り上がって僕に話したら幻滅?ニコニコしてるのに愛想が無くて、何考えてるわからないとか...なに夢を見てるんだか...虫唾が走る」
「お前なぁ...」

勝手に夢見て現実が違うと落胆するなど、そいつの世界はどれだけ生温い世界なのだろうか。

忍の世界では笑い合い肩を組んでいた相手が、次の瞬間には殺す標的にだってなると言うのに。

その世界で生きていくと決めた者達の集まりな筈なのに...根では考えられない程に馬鹿げている考え方だ。

「ま、でもお前と初めて会った時の俺も笑顔で騙されたってばよ!サクラちゃんも騙されてたし、本当のお前知った時はサクラちゃん超激怒してたもんなー」
「あれは僕が、里抜けした最低野郎と面影が似てると言ったサクラが悪いと思うけど?」

「最低野郎って...サイも結構最低野郎だぞ?でも、まーサイを知らない奴はその表面笑顔で簡単に騙されるのかもな!」
「...それ貶してるの褒めているの?」
「はははー両方だってばよ!でも、最近笑ってても無表情でも、何と無くだけど俺はお前の考えてる事とか分かるし付き合い長くなると結構人間の壁って薄くなるもんだな。知ってるか?お前ってば、心許した相手には本当に笑う時あるの!そんな訳でー今の俺の中でサイって奴は、イケメンではないが、悪い奴ではないってばよ!」
「...」
「だからさ...そのキャーキャー言ってる中の誰かが、本当のお前に気付いてくれて、その白黒の世界を鮮やかに色付けてくれる子でも出来たらなーって思ったんだけど...今はまだ無理そうだってばね!」

「ナルト......今、何て...言ったの?」
「ん?だから彼女でも出来たら」
「違う!そんな言い方じゃなかった!」
「何だよそんな焦って...んーと、お前のーその白黒の世界を変えてくれる相手をだな」
「っ!」

その瞬間だった、ナルトの周りから空気が震える様に広がりながら色鮮やかに色付いて、本当の色が目に飛び込んできた。

オレンジと青と金色。

広がる木々達の青さなど霞む程に、彼女は鮮やかに色付いていた。

「どうした?サイ?」

サスケが何故君にあれ程の執着を見せ、僕を威嚇したのか今やっと理解した。

白黒の世界しか知らない僕のような者達には、君が居るこの世界は鮮やかで眩しくて、惹かれない筈がないのだ。

何故気づかないでいたのだろうか?何故気付いてしまったのだろうか?もう引き返す事など出来ない、君の色を知ってしまったのだから。

今、僕の瞳は彼と同じ瞳をして、君を見つめる。




END




あとがき

最近また小説をどどどと書いてて
別ジャンルですが^_^;
そう言えばウチのサイト
ガッツリなサイナルコが無い!

と、気付いて勢いで2日で
プロットで肉付けで完成⤴︎

誰得か分からんのですが
好きな人の萌え補給になれば☆

2014.5/30.犬居
 

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