頂き物小説

□【笑顔の裏に隠れていたのは】
1ページ/2ページ

ある日の夕方。
 本日の任務を終えたナルトは、カカシと共に帰宅の徒についていた。
 この所任務が立て込んでいる所為なのか休みは中々貰えない上、里の主戦力でもある二人は請け負う任務が別々だったり、共に赴いても次に別々の任務が入っていたり。
 恋人同士でありながら、何かとすれ違ってばかりの日々を過ごしていた。
 勿論自分達が忍である以上、任務を優先しなければならない事は二人共重々承知している。
 だがそれでも、会えない事による寂しさと不安は募るばかりで。
 時折、辛そうな表情を浮かべては、溜息を吐く様になっていた。
 そんな中、ナルトをいたく可愛がっている綱手が二人の様子から配慮したのか、共に明日は休みにした旨を伝えたのである。
 一日だけとはいえ、漸く出来た二人だけの時間が余程嬉しいのか、買い物をしている間も荷物を持って帰る時も、ナルトは始終にこにこと満面の笑みを浮かべていた。
 そんなナルトをカカシは愛しげに見つめていたが、そっと目を細めると耳元に唇を寄せて「今日、泊っていくでしょ?」と囁き。
 吐息と共に告げられた言葉の裏に潜む意味に気付いたナルトは、顔を真っ赤に染め上げるとこくりと頷き嬉しそうに微笑んだのだった。



 到着したカカシの自宅でラフな格好へ着替えると、二人は他愛ない会話を交わしながら夕食を食べたり、のんびりとTVを観たりと穏やかな時間を楽しんでいた。
 そんな中、ナルトが時折不安そうに瞳を揺らしていた事に気付いたカカシは暫く様子を見ていたが。
 不意に、表情を改めたナルトはTVから隣にいる恋人へ視線を向けて。

「なーなー…カカシセンセー…」
「なーに?ナルト」
「あのさあのさ……カカシセンセーはオレの事どー思ってるってば?」
Γ……は?」

 悪戯っぽい笑顔で、ナルトはそう聞いてきたのだ。
 突然の問い掛けに、カカシは何故そんな事をナルトが言い出したのか分からず一瞬ぽかんとした表情を浮かべる。
 だが、楽しげな笑顔とは裏腹に向けられた瞳が不安げに揺れているのに気付いたカカシは、柔らかな笑みを浮かべると己の想いを伝えた。

「勿論決まってるでショ?ナルトはオレの大切な頑張り屋の部下で、誰よりも愛してる恋人だよ」
「…へへっ……嬉しいってばよ……」

 しかし、その返答に対し、ナルトは泣きそうな表情を浮かべると俯いてしまったのだ。
 そんなナルトの弱々しい姿を暫く見つめていたカカシだったが、何かを思い付いたのかすっと目を細めると顔を覆っていた布をぐいっと引き下ろし。
 そして優しくナルトの左手をすくい上げると、己の口元へ持っていきそっと唇を押し当てていく。
 柔らかな口付けを、一本一本の指先へと。
 最初は顔を上げ不思議そうに成り行きを見つめていたナルトだったが、口付けられていく度にかかる吐息の熱さに、じわじわと指先が熱を帯びていく事に気付いて驚きに目を見開いた。

「か…カカシ…セン、セ……」
「ん?どうしたのナルト」
「あっ!」

 自身の変化に動揺するナルトを余所に、カカシは指先から手首へと唇を移動させると強く吸い上げ、赤い華を作り上げる。
 そして咲いた赤い華にカカシが舌を這わせた瞬間、手首から全身に馴染みのある感覚が電流の様に走り、ナルトは思わず声を上げてしまった。
 覚えのあるそれは、何度も与えられていた快感に他ならなくて。
 ただ吸われた手首を舐められただけで快楽に襲われた事にうろたえたナルトは、顔を真っ赤に染め上げると慌てて掴まれた腕を引き離そうとする。
 しかしそんなナルトの行動を既に見越していたカカシは、手放すまいと掴んでいた腕を引き寄せぎゅっと抱き締めて。
 そのまま後頭部にもう片方の手を当てて顔を上げさせると、甘く響かせたナルトの唇に誘われる様に己の唇をしっとりと重ね口付けた。

「ん……」

 ナルトの柔らかな唇を堪能するかの様に、カカシは何度も口付ける。だが、そっと唇を放した瞬間ナルトを座っていたソファーに押し倒したのだ。
 突然の事に驚いて瞳を見開くと、目の前には真剣な表情を浮かべたカカシが己を見下ろしていて。
 その異なる左右の瞳に絡め取られたかの様に視線を外せなくなったナルトに、カカシは静かに口を開いた。

「……カカシ……セン、セ……?」
「……ねえナルト、どうしてそんな事……オレに聞くのかな?」
「……え……」
「オレがナルトの事をどう思ってるのかなんて、ナルト自身が一番良く知ってる筈でしょ?なのに何でそんな事聞くのかなー?」
「そっ……それ、は……」

 カカシからの問い掛けにナルトは思わず口ごもり、ふいと視線を逸らそうとする。だがカカシはそれを許さず、こつりと互いの額を重ね合わせると更に言葉を重ねていった。

「ナルトを愛してるって、オレ何時も言ってるよね……ねえ、オレはそんなに頼りない?それとも……オレの言葉は……信じられないのかな?」
「ちがっ……そんなワケじゃ……」
「じゃあ言えるよね?どうして?」
「……それは……」
「ナールートー」
「……っ」

 吐息が掛かる程端麗な顔を近付け、嘘も誤魔化しも許さないよ、と真剣な声色で言うカカシに遂に観念したナルトは、ぽつり、ぽつりと話し出した。

「……オレ、夢だったんだってば……オレを迎えてくれる家族がいて……オレを認めてくれた里のみんなと笑い合って……好きな人と……一緒にいるのが……そのためにも、火影になるんだって、オレってば頑張ってた……でも、ホントは……そんなの叶う訳ないって……オレには無理だって……そう、思ってたんだってば……」
「……ナ、ルト……」
「でもさ……この前、オレの父ちゃんと母ちゃんはやっぱり死んじまってたけど……オレの中にいて……オレの事ちゃんと愛してくれてたんだって、知ったんだってば……それに今のオレには仲間がいっぱい出来たし……里のみんながオレに優しくしてくれる様になって……何より、大好きなカカシ先生が……オレを愛してるって言ってくれて……こうして一緒にいてくれる様になったんだってば……」
「うん、そうだよ……ナルトは頑張って夢を叶えたよね。今やナルトは里の英雄で、何よりオレの愛する恋人だよ」
「……でも……」
「……でも?」
「でもさ……オレってば、怖いんだ……」
「え……?」

 常に笑顔を浮かべ、前へ進んでいた恋人の思いもよらない言葉に、カカシは訝しげな表情を浮かべるが。
 続けられた内容に、カカシは見る見るうちに表情を強ばらせ驚きのあまり目を見開いてしまう。

「怖い?どうして?」
「……だって……オレってば九尾の器だから……ついこの間まで、みんなオレの事……憎んでて……嫌ってて……冷たくて……誰も、オレの事なんか……見てくれなくて……愛して、くれなくて……ずっと、独りだった……だからオレ、今すっげー幸せって思ってるんだけどさ……みんなが言う幸せってホントはどんなのか知らないし……ホントは、愛するって事も、愛されるって事も……分からないんだってば……」
「……なっ……!」
「そのくせ……オレ、ダメだって分かってるのにっ……ふえっ……もっと幸せに……ひっく……なりたいって……ふっ……おもっ……」
「……っ!」

 表情を歪め、ぼろぼろと涙を零しながら明かされたナルトの、あまりに深い心の闇の深遠を知ったカカシは絶句してしまった。
 それはナルトが受けた過去の経験が、想像以上に辛く哀しかった事に他ならなくて。
 言葉を失い身を起こしたカカシを余所に、ナルトは更に押し隠していた想いを泣きじゃくりながら吐き出していく。

「ひっく……だから、怖いんだってば……ぐすっ、ひっく……失うのも、分からないのも……ううっ……幸せになりたいって、願う自分も……怖い……てば……うっ……ううう……」
「……ナルト……」
「ひっく……ごめ……なさ……ごめん……な、さ……ふええ……」

 泣き顔を隠す様に自由になった両腕を重ね合わせ、悲痛な声で謝るナルト。
 ある程度予想していたとはいえ、まさかこれ程だとは…初めて知ったナルトの心の闇に、カカシは深い後悔に苛まれる。
 だが。

「ナルト」
「ごめ、ん……な……う……うう……ごめ……ひっく」
「……ありがとう」
「……え……わっ!」

 カカシの口から出たのは、何とナルトに対する感謝の言葉だったのだ。
 それに驚いたナルトは溢れる涙をそのままに、重ねてた両腕を外してカカシを見ようとする。だがその前に突然身を起こされ、気付けばカカシにぎゅっと強く抱き締められていた。

「か……カカシ……せん、せー……?」
「有難う、ナルト……そして、ごめんね……許して、ね……」
「……え?」

 意味が分からず絶句するがカカシに益々強く抱き締められていて。
 自分を抱き締める腕の強さがまるで己に対する気持ちその物に思えたナルトは、ふっと肩の力を抜いて全身を預ける。そしてカカシの逞しい胸板から伝わる体温の温かさや、とくとくと聞こえる心音、そして鼻腔をくすぐる香りが、自分の全てを護ってくれてる様に感じ、ナルトはうっとりと目を閉じると安心したのかうとうとと微睡みだした。
 だが、そんなナルトをそっと身体から離すと、カカシは優しく包み込む様にナルトの両頬を両手でしっかり押さえる。そして驚きに目を見開いたナルトの瞳を熱い視線で捕らえると、カカシが小さくともしっかりした声で囁いた。

「有難うナルト……ずっと隠していた心の内を晒すのって、信頼した相手でも凄く勇気がいる事なのに……オレに教えてくれて、有難う……有難うナルト……」
「セ、ンセ……」
「それから、ごめんね……オレはナルトの上司で年上で、恋人なのに……ナルトの気持ち、ちゃんと分かってなかったんだね……こんなに苦しんで、こんなに傷付いて、たのに……オレは、気付けなかった……恋人、なのに……本当に、ごめんね……」
「ちっ、ちがっ!カカシ先生は悪くないってば!元はと言えば、オレが……弱いオレが悪いんだってばよ!だからっ……」
「でも……愛してるんだ……」
「……え?」
「愛してる……愛してるんだ……誰よりも、何よりも……ナルトだけを愛してる……」
「あ……あの……」
「もう手放せない……ナルトが泣いて嫌がっても、絶対に別れない……勝手だとは分かってるけど、オレはナルトを失いたくないんだっ……だから、ごめん……許して、ナルト……」
「ちょ、ちょっとまっ……んんっ!」

 くしゃりと表情を歪め、泣きそうな声でそう言うとカカシはナルトの甘い唇に喰らい付いた。
 突然の口付けに動揺したナルトは空気を求めて僅かに口を開けてしまうが、その隙にカカシは舌を差し入れて深く口付ける。

「んんん!ふっ……んふう……ん……」
「可愛い……ナルト……」
「ぷはっ、ま、待っ……あふっ……んん……ふ、あ……」

 ぴちゃり、くちゅりと音を立てながら口内をくまなく蹂躙される度にびくびくと震え、甘い喘ぎ声を上げていく。
 ねっとりと口内の粘膜を舐められて、絡め取られた舌を甘噛みされて。
 湧き上がる痺れる様な快感に全身を絡め取られたナルトは、固く閉ざした目からぽろぽろと涙を零した。

「んん……ふあああ……あふぅぅ……」
「ん……ナルトの唇……凄く甘くてとろけそうだね……」
「んんー!んああ……んふう……あうう……」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ