頂き物小説

□初めてのツーマンセル・2011年Xmas
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初めてのツーマンセル・2011年Xmas





「急がねぇと、間に合わねぇってばよ!」

そう叫んだナルトに向かい、フンと鼻を鳴らす。

「お前がいちいち、まとわり付いてくるガキ共の相手をするからだ」

ふてぶてしい声が、ナルトのすぐ下から聞こえた。

「うっせぇってば!仕方ねぇだろ?
あんなに嬉しそうな顔をされたら、構ってやりたくなるだろーが!」

「それにしてもお前は構い過ぎだ。ワシはもう帰って寝るぞ」

「寝るったって、オレの腹ン中だろ!?もうちょっと付きあえってばよ!」

ナルトは言うと、グイと手綱を引いた。
大きな赤い首輪についた大きな鈴が、シャランと済んだ音色を響かせる。
それと同時に、頭につけられた大きな角が、不安定に揺れた。




(絵:犬居)


「グッ……ナルト、このツケは重いからな」

「あと5件で終わるから、文句言わねぇの!
終わったら、お前の好きなモン食わせてやっからよ」

「言っておくが、ラーメンはいらんぞ」

フン、と鼻を鳴らしたトナカイ――
もとい九尾は、ナルトを背に乗せ、天高く舞い上がった。
木ノ葉の夜空に、オレンジ色の細い光点が尾を引いていく。
それに気付いたのは、火影室の窓から外を見ていた綱手ひとりだった。

紆余曲折の末、ナルトと九尾は互いを認め合い、
人柱力と尾獣という関係を越え、良きパートナーとなった――
はずだった。

……

今回の任務は、ナルトと九尾に与えられた、初のツーマンセルである。
ところが、その任務というのが問題だった。

「ええ!?オレがサンタクロースで、九尾がトナカイぃ?」

「つまりはコスプレか」

冷静な九尾の言葉に、ナルトの方が眼を丸くした。
人間(=ナルト)サイズで現れた九尾は、ナルトの側で
綱手の顔を睨んでいる。

「話がわかるな、九尾。
お前とナルトは、25日に施設を回り、プレゼントを配ることになった」

「え、――」

僅かにナルトの顔が曇ったのを、九尾は見逃さなかった。

「ヤツも恐らく任務だろう。どうせ逢えるのは深夜だ」

「……おっ、おう」

もちろん、カカシのことである。
ずっと腹の中にいた九尾には、ナルトの考えなどお見通しなのだろう。
今はチャクラを分離して、こうして表に出ているが、その本体は
あくまでもナルトの中に存在している。

「さっさと終わらせるぞ。
綱手の言いなりになるのは癪だが、任務となれば仕方あるまい。
お前の給金に跳ね返ってくるんだからな」

「九尾……」

「行くぞ、ナルト」

ナルトの返事を待つことなく、九本の尾を揺らめかせ、
火影室を立ち去っていく。
そんな九尾の後を、慌ててナルトが追い掛けていった。

「ったく、気が合うのか合わないのか、わからない奴らだな」

ひとりと一匹の後ろ姿を見送り、綱手は苦笑しつつ肩を竦めた。

……

トナカイの角をつけた九尾を、子供達が嬉々として取り囲み、
わさわさと撫で回す。
不貞腐れたような顔をしつつも、九尾はじっとしていた。
この施設で、任務は終了である。

「それじゃ、来年もいい子で過ごすんだぞ?
またプレゼント持って来るからな!」

「ありがとう、サンタさんにトナカイさん!」

手を振り、九本の尾があるトナカイにまたがったナルトは、
ブルリと全身を震わせた。

「大丈夫か、ナルト」

「おう。何か短い丈だから、腹がスースーしてたまらねぇってばよ。
サイじゃあるまいし、何でこんな格好なんだってば」

ブーブー文句を言うナルトに、九尾は内心で溜め息をついた。
ナルトは確かにサンタクロースの格好をしてはいるが、
上着は形の良いヘソがちらりと見えるショート丈で、
下もズボンというよりは膝上の短いパンツを穿いていた。
なので長靴ではなく、膝までの黒いロングブーツを履いている。
金髪碧眼の、それも少年と青年の境目にあるナルトに
絶妙に似合うスタイルで、行く先々で熱い視線を浴びていた。
女性よりも男の、それもナルトより年上の男たちの視線が熱いのだが、
鈍いナルトはそれに気付かない。
施設は子供ばかりなので大丈夫なものの、移動するたびに数多の
やましい視線を浴びるナルトに痺れを切らした九尾は、陸ではなく
空の移動に切り替えた。
そのお陰で、ギリギリ深夜にならずに済んだといえる。

「終わったのなら帰るぞ」

「おう!」

返事をしたナルトの腹と首に、というか上半身に、オレンジ色の
尾が絡み付いた。

「……九尾?」

「家に着くまで、少しは暖かいだろう」

「――おう。ありがとうってばよ、九尾」

ふさふさの尾が三本、ナルトの身体を包み込んでいる。
伝わる暖かさに、ナルトは思わず頬を緩めた。
口も態度も悪いが、ずっと自分を見ていてくれた最凶の尾獣。
こうして共に過ごすことができるようになるは、夢にも思わなかった。
感傷に浸っていると、九尾は音もなくナルトのアパートの前に降り立った。

「早く入れ。……先客が居るぞ」

「え!?お、おう!」

ナルトは慌てて鍵を取り出そうとしたものの、それが必要ないと
気付くと、気恥ずかしそうにドアを開けた。

「――お帰り、ナルト」

そこに立っていたのは、ナルトが誰よりも逢いたかった愛しい人
――カカシだった。

……

「可愛いじゃない」

コスプレのようなサンタ姿をじっと見つめられ、途端にナルトは
落ち着かなくなった。

「きっ、着替えるってば」

「待って」

腕を引かれ、ナルトはカカシの前に立たされた。
ブーツを脱いだため、白い足が露わになり、かつヘソが見えるという
扇情的なサンタが、カカシを見上げている。

「プレゼントは、お前でいいよ」

そう言って抱き寄せた視線の先に、トナカイコスの九尾が
ジト目でこちらを睨んでいた。

「ああ、居たの」

「当たり前だ!」

「戻ってもいいよ?なんなら、そこで見ていく?」

「馬鹿者!ワシにそんな趣味はないわ!」

九尾は身体を震わせると、角も首輪も全て床に落とし、チャクラの
塊となると、ナルトの腹部へと消えていった。

「う……」

「大丈夫?」

「おう。ちょっと、機嫌悪ぃみてぇだけどな」

「任務のせいかと思ったけど、お前のその恰好のせいだろうな」

「オレの?」

「そう。ところで誰の見立てなのよ、そのサンタコス」

「サクラちゃんといのだってばよ」

「やっぱりね……」

肩を落としたカカシは、抱き締めたナルトを横抱きにすると、
そのまま奥のベッドに向かった。

「カッ、カカシ先生!?」

「先にプレゼントをもらおうかな。
お前のプレゼントとケーキは、その後ね」

耳許で甘く告げられ、それ以上に甘いキスをされてしまえば、
頷くしかない。
九尾との初任務は無事に終わり、カカシとナルトの逢瀬も
無事に終わった。

『九尾がいれば、安心だな』

カカシはナルトを抱きながら、その腹部にキスを落とした。

『これからもよろしくね』

『お前のためにやっているわけじゃない!』

脊中の毛を立てて怒る九尾の姿が見えるようで、
カカシはクスリと笑った。



完。
 

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