【短編集】

□psychosis
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何度となく己の細い腕を刻んで痛めつけた。


でも少しすると流れ出る紅い血は止まり、
切り開かれた皮膚の合間から見える肉編は
誰も頼んでもいないのに盛り上がり蘇生して、
醜い傷跡を奇麗に消してしまう。


消えない傷を自分に残したいと切に願うのに
身体はナルトの心に一度たりとも共感はしてくれない。


「何でだよ…何でなんだってば!」


消える傷に満足する事など出来なくて
己の血で濡れたクナイをへ腹部へと移動させた。


両の掌でしっかりとクナイを握り目を瞑った瞬間、勢いよく振り下ろす。


しかし腹部を襲う筈の強烈な痛みは
いくら待っても来る事はなくて
目を開いて確認すれば


自分の両の掌をガッチリと捕まえる
自分よりも一回り大きい掌が見えた。


その掌には黒く鋭い爪が生えていて
柔いナルトの肌に刺さり
自分が求めていたものとは違う
チリチリとした甘い痛みが与えられる。


「…またかよ」


ぼそり吐き捨てて、その黒い掌の相手を睨みつけるが
狗面をした背の高い男が言葉に反応する事はない


それは毎夜繰り返されるこの行為で証明されていた。


「…邪魔すんなよ!いつも何なんだってばアンタ…
こんな狐付きが傷ついても、死んでも…
誰も悲しまないってば!」


自分でそう吐き捨てて置きながら
何故か眼頭に熱が集まってしまう。


まだ生に執着があるからこその熱だろう。


そして、冷静にクナイを振り下ろせるのも
この人が止めてくれると分かっているからで


ナルトは、弱い自分に厭悪し天を仰いで嘆息する。






【psychosis】(精神異常)



どんな辛い境遇に生まれ落ちようと
それも全て含めてが今の自分なのだと言い聞かせて
笑顔を振りまいて他者との交流に努めた。


『化け物』と言われ石を投げつけられても
時に人通りの少ない路地裏で集団暴行を受けても


自分の笑顔に振り向いて
笑顔を返してくれる人がいたから
いつかはきっと自分の笑顔に
振り向いてくれる人がまだいるんじゃないかと期待していた。


でも、そんな矢先…


もうダメだと思った終わりだと思った。


唯一自分に笑顔をくれていた人が言ったのだ
『お前に俺の両親は殺されたんだ!この化け物が地獄に堕ちろ!』
告げられて、何も言えなくて下を向いた瞬間に刃物で刺された。


『お前が死ねばよかったんだ!』


『何故平然と生きて笑っていられる…』


『気付けよ…この里はお前を必要としていないんだよ!』


『消えろ!』


『…死ね!死ね!死ねよ!』


つい先程まで自分に笑いかけていた人物が
次の瞬間には憎悪に歪む顔をして
あまりにも酷い言葉を吐き捨てる。


心を開いていたナルトにはあまりにも
ショックが強過ぎたのだろう
刺されているのに、抵抗する事はなかった。


『ごめん・・・ごめんなさいって・・ばッ・・・ごめっ・・・』


口の端から血を溢れさせても、詫び言を続けるのだが
憎悪が立ち上る相手の耳には一切届く事はなかった。


腹の臓がぐちゃぐちゃになってもナルトは刺され続けた。


言葉では表せない程の痛みを与えられても
自分が悪いのだからと意識を手放す事もせず謝り続けた。


里の裏路地から漂う強い鉄臭に暗部が気付き
駆け付けた時には出血多量でナルトは瀕死の状態だった。


何故いつもナルトを監視している暗部が
この惨状に気付かなかったのか


それはナルト自信もその相手を信頼していたし
相手もまたナルトを信頼し笑顔を向けていたから。


感情をコントロールする暗部でさえも
相手の抱える暗闇に気付く事はなく
この相手はナルトにとって無害だと
勝手に決め付けてしまったのだ。


ナルトに笑顔を返す振りをし続けて
心の奥底ではいつか…この手で…と思っていたのだろう。
そしてやっとチャンスが巡り、自分の心の闇を全て吐きだした。



流れ出る血の量に見るも無残な腹の臓に
虚ろな目をして息絶え絶えな何かを喋るそれに
相手が満足したかと思えば天を仰いで奇声を発し暴れ出した。


もう感情コントロールが出来なくなってしまったのだろう
完全に可笑しくなった相手は自分の抱える闇に浸食されてしまった。


暗部に身体を抑えられ拘束された相手は
心の闇と同じ様に暗い暗い道へと消え去っていった。




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闇に属してから、連日の過酷な任務に精神をやられ
自傷する奴を何度も見かけてきた。


流れ出る己の血に『生きている』のだと認識して
今自分が誰なのか、何をすべき時なのかを考え
自分以外の命を容易く途絶えさせていく


そいつらは闇からの生還者。


そして闇に呑まれた奴等は
自分に何が起きているのか理解出来ず誤った世界を生み出し
その内存在しないものを見たり、聞き現実の世界で自分を見失う。


ナルトが心を開いた相手は闇に呑まれ
ナルトもまた闇に呑まれようとしていた。





ナルトがこの世に生れ落ちた時
あまりの小さな存在に、生き続けられるのかと思った。

しかし、胸の中のナルトは自分を見上げると
青い瞳を輝かせ、この世に生を受けた喜びを溢れ出したかの様に微笑んでいた。


その刹那、自分の抱える闇を貫いて
言葉では名状しがたい感情に捕らわれた。


『今から、お前をナルトの監視役に任命する、心してかかれカカシよ』


三代目に願ってもない任務を告げられて、ミナト先生とクシナさんが命を捧げて
残していったこの小さな希望の光に、自分が関われるのだと心から謝意を表した。





いつも黙り、ナルトの自戒行為を寸での所で止めていたが
日に日にナルトの瞳が放つ光彩が陰りを見せ
自分の弱さに厭悪し天を仰ぐナルトを見て、もう放ってはおけなかった。




今日は違う…




ナルト…




お前を憎しみの連鎖から解放してあげるよ…










END…





あとがき




以前にとったアンケートを見返していたら
「一部カカナルでシリアス」とコメントを
書いてくれた方が居て


最近シリアスも書いてみたいなと
思っていたのでチャレンジしてみました。


最後の続きを考えたのですが・・・


カカシ先生も闇に染まったままなら
一緒に命を絶つ事でナルトを救う=バッドエンドor悲恋です私的に


でも、もしカカシ先生がナルトに希望を抱いて
光へと歩んでいるならば
ナルトを闇から救い出して一緒に未来へと
歩んでいくのかな?


それだとシリアスにはならないかも(^^;


でも、この2人の未来は読んで下さった
貴女の胸の中で続きを想像してくださいね^^



最後のあとがきまで
読んで下さった方がいましたら
有難う御座いますm(、、*m


2012.12/18 犬居

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