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□3.拒否権はあげないよ
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「名前――――――――!!!!」





25メートルくらい先から音也がこちらに向かって走ってきています。

さぁ、どうする私…!


1、逃げる
2、逃げる
3、ともかく逃げる


私は条件反射に走った。
音也の方向へ!



「おーとやー!」

「名前!」



音也は止まって腕いっぱいに手を開いている。



「名前俺の胸の中に思いっきり飛び込んでおいで!」



音也の胸の中まであと一メートル!
と、いうところで私は右に一歩避けて軽やかに通りすぎる。


音也と逆方向に逃げても奴は追って来る。
足が奴に敵わないことくらいわかる。

だとしたら、少しでも時間を稼ぐためにはこうするしかなかった。


音也の横を通過すれば後はひたすら猛ダッシュするのみ!


が、


「もー、名前!!何で逃げるの!あ、照れてるのー?そんな名前も超可愛い!」


何か猛烈に勘違いして追ってくる。
何言ってんだ?あいつは。

何か可哀想に思えてきた。


だがしかしな、ここまでは予想通り!
奴が追ってくることなんてわかってたんだよ!

追って来ないという微かな期待はほんのちょっとだけ抱いてたが。


私は駆け込んだ。女子トイレへ、



「ふはははは!音也、ここなら入って来れないだろう!私の勝ちだな!!」



ふ、勝ったな。


……………・・・・・・・・・



あれ、確かに奴は入ってこれない。
だけど、私出れなくね?

いやね、出るのは簡単よ?
けどさけどさ、待ち伏せされてたらどうよ?

音也ならやりかねない。
いやいやいやいやいや、しばらく待てばいなくなるよね。あきらめてくれるよね。

そんなに音也も暇じゃないよね?



よっし、ということでしばらく待とう。
私はトイレの個室に入って携帯を取り出す。

綺麗なトイレでよかった。

さて、携帯小説でも読もう。
これめっちゃ時間潰れるんだよねー。



「うおう!このサイトさん更新してんじゃん!!」














――――――――――・・・



「さて、もういないだろう」

結局二時間もここに居座ってしまった。
私はトイレの住居人か!

いやー、でも結構居心地いいんだよ。
マジで。



「さて、部屋に戻ったらイチャイチャしようと!」

あ、音也じゃなくて画面の中のイケメンとね。


そう言いつつドアを開ける。



「あ、やっと出てきた!もー、待ちくたびれちゃったy…」



バタン。



「……………」



ドアを開けたが、思わずまた閉めてしまった。



「あははー、何か幻覚見えちゃったよー。怖いなー。」

「いや、幻覚じゃないから」

「…うぎゃあああああああああああああ!!!ちょ、待て待て!お前どこにいんのよ!ここ女子トイレだから!」

「知ってるよ。でももう誰もいないから大丈夫だよ!へー、女子トイレってこうなっているんだね。」




音也は女子トイレを見回す。
変態か…?いや、変態だろうけどさ。



「何で俺から逃げるの?名前、そんなに俺のこと嫌い?」

「え、どっちかって言うと…」

「そうなんだ…、へへっ、そうだよね。俺がもともと無理矢理付き合ってもらってるんだもんね。」

「え…」



急に真面目になったと思ったら、下を向いて震えた声で言う。

これは言いすぎたか!?



「お、音也!!ごめんね!音也が私を好きだって言ってくれるのは嬉しいよ!!音也のこと大好きだよ!(いろんな意味で)」

「ほんと?」

「うん!ほら、ね?だから顔あげて!」

「じゃあ名前がキスしてくれたらいいよ」

「何言って…!」

「やっぱり名前は俺のこと嫌いなんだね。今まで迷惑かけてごめん、ね…」



音也から涙が零れていく。
あの音也が泣いた…!

どうしよう、そんなに傷ついたの?
さすがの私も動揺してしまう。

だって、あの変態で自意識過剰な音也がだよ!


もうこうなったら、



「音也、顔あげて?」

「ん」



涙目な音也。
やだ、何この子、可愛い。



「ごめんね、大好きだよ。たぶんだけど、ね」



そのまま音也の口にチュッと、軽く口づけする。



「まさか口にしてくれるとは思ってなかったよ。」

「え」

「そっか、そっか!名前が俺のことやっと好きって言ってくれた!これで俺達本当の恋人同士だね!」


「…ねぇ?音也。今の取り消しは…」

「できないに決まってるじゃん。」

「だって、あれは…!」

「まあ、どっちにしろ名前には拒否権なんてなかったけどね。」

「いやいや、私にもいろいろとなんちゃら権利とかあるから。」

「何度言っても、もう拒否権なんてあげないよ。だって、やっと手に入れた名前なんだもん。」




「う、うわああああああああああああああああああああああああああ!!!!!誰かこのよくわかんない自己中男なんとかしてくださいいいいいいいいいいいいいい!」




私はそのまま思いきり走って自分の部屋に戻った。
だってなんか恥ずかしかったし、もう何を言っても無理だって思ったから。













(泣き真似練習しておいてよかった)
(………名前も大変そうですね)
(ん?何か言った?トキヤ)
(いや……)













――――――――――――――――――

音也は自己中なくらいが可愛い。
と、思う。









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