赤ずきん




とある国の、とある森の奥にある、とある小さな村―――。
住民の少ないその村の森である事件が多発していた。
森へ出た女が一人、また一人と家に帰って来なくなったのである。
自分の妻が、娘が、友人が…と嘆く村人らにより、女の後をつけてその原因を探ると、驚くべき光景を目の当たりにした。
“オオカミ”がいる!
森にオオカミが生息していることは珍しくも何ともなかった時代だったが、この村は特別だった。
10年ほど昔、ある腹をすかせたオオカミが村の少女とその祖母をあくどい策で食べ、それに怒った狩人がオオカミを殺してしまうということがあった。
以来、その狩人は今後の危険性を恐れ、村の男たちと善悪関係なく全てのオオカミを抹消してしまったのだ。
そして他の地域から移住してくるオオカミもなく、平和な森が続いていた。―――なのに女たちが消えたのは何処からかやってきたオオカミの仕業だったのだ。
しかもまたタチの悪い………フェロモンを扱い女を連れ去る悪党であった。
食べられてしまった人を想い、憎きオオカミを討とうとするが奴はかなりの手練者で返り討ちにされた。
しかも男相手ではなかなか姿を現さず、てこずっていた。
オオカミの狙いは人間の中でも“女”であることが分かったが、女を囮にするわけにはいかず、男に勝る力量を持つ女がいるわけがなく…と人々は村の存亡を危ぶんでいた。
こうして男たちがオオカミを退治できないまま、さらわれた女は19人までに膨れ上がり―――1ヶ月が過ぎた頃、ついにあの男の番が回ってきた。
 真田幸村。
由緒正しき真田家の血統で、この村一の強者である。
柔らかい黒髪は後ろで尻尾のようにひとつに細く結わえられ、額には赤い鉢巻、細く引き締まった肢体は勇ましくも、可愛らしくも見えた。
そういうこともあり、幸村はオオカミ退治に適していた。 彼の住まいは村から少し外れた木の影にぽつんとあるレンガ造りの家だ。 
―――日が暮れ始めた。 それと同時に彼は愛用の二槍を持つ…。

 さてここからは、オオカミと真田幸村の奇怪な物語―――。
 

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