Story

□風の行方V
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防波堤に座って、1人で考えていれば夕陽も傾いて薄暗くなってきた。


そろそろ帰ろうかと、重い腰を上げて立ち上がった時、あたしの目の前にはいま一番会いたい人が立っていた。



「陽菜…なんでここに?」

「たかみなこそ…なんで?」



お互い驚いた表情で、しばらくの沈黙。


とりあえずまた腰を降ろして"座れば?"と陽菜に促すと、コクンと頷いてあたしの隣りに座った。



あのときみたいに距離は近くないけど、一年前のことをまた思い出す。



なにも会話もなく、ただ時間は過ぎて辺りは暗くなりポツンとある街灯が2人を照らす。



そんな沈黙を破ったのは陽菜だった。



「懐かしいね」

「あ、あぁうん」

「あそこの海の家でとうもろこし食べたりしたよね」

「半生だったけどね」

「ふふっ、そうだね」



ちらっと陽菜を見ると目があって、あの時みたいに笑いかける。



ドクンと胸は高鳴って、思わず目をそらした。



「ねーたかみなー」

「ん?」


至って平然を装って。



「なんで陽菜たち別れたんだっけ…」

「え?」



平然となんてしてられなかった。

寂しそうに笑う陽菜を見たら、心が傷んだ。



「陽菜、忘れちゃって」

「そう言えば…あたしも思い出せないや…」



思考回路をフルに巡らせても、全く別れた理由なんて出てこなくて、笑っちゃった。



「たかみなも?」

「うん。全然出て来ないや」



顔を見合わせて笑えば、急に陽菜は真面目な顔をしてこう言ったんだ。



「あたしたち…1からやり直さない…?」

「えっ?」



それは予想外の言葉で、まさか陽菜の口からそんな言葉が出るなんて思わなかった。



「ダメ…かな?」

「…高橋なんかでいいの?」


「たかみなじゃなきゃダメみたい。だって、別れてからもずっと好きだったから…」


「うそ…あたしも別れてからずっと好きだった…」



こんなことがあっていいのだろうか?


理由もわからず別れて、また陽菜と共に過ごせるなんて。



陽菜は空いていた隙間を埋めるように、隣りに来て手を握った。



「もう離さないでね?」

「うん、絶対に離さない…」



陽菜の手を握り返して、ぎゅっと陽菜を抱きしめた。


ちょっとぎこちなくて、そんな抱擁に陽菜は笑って呟いた。




「陽菜、幸せ者だ」



高橋だって幸せ者だよ?




もう二度とこの手を、身体を離さない。




あたしの隣りは陽菜だけ。






End

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