Story

□風の行方T
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あの夏からちょうど1年か…


この海も砂浜も、潮の香りも、2人で座った防波堤の上も全てが懐かしく感じる。



久しぶりに1人で訪れた思い出の海。



もう近くに君はいない。




あの頃がとても幸せで、毎日君の笑顔に癒されてた。





1年前の今日―




「ちょっとたかみな待ってー!」

「なんだよー早くー!」

「まだ日焼けどめ塗ってない!」

「そんなもんいーよ」

「事務所に怒られるよ?」



それもそうだ。

日焼けしたら絶対的に怒られる。

サンサンと照りつける太陽が眩しくて、早く波打ち際に行きたい気持ちを抑えて陽菜と日焼けどめを塗る。



今日は2人の1年記念日。


ちょうど仕事もお休みで、海に行こうという陽菜の一言で来た海。




「よっしゃ完了ー!ほら、陽菜行こ!」

「待って!帽子被んなきゃ!」

「重装備だなー」

「だって焼けたくないもん」



ビーチサンダルに履き替えて、膨れっ面をする陽菜の手を引いて、波打ち際まで歩き出す。


7月なのに人が少なくて、辺りには波乗りをするサーファーがちらほら居るくらい。



「あついー」

「もう夏やなー」

「たかみな水気持ちいいよ!」

「水って…」



はしゃいでいる陽菜を見て、思わず優しい笑顔になる。

ほんと癒されんなー。



波打ち際をペタペタと裸足で歩く陽菜が愛おしくて、この時間が幸せでならない。






「あー楽しいなー」


防波堤の上に2人並んで座って、海をボーっと眺める。



「また来年も来ようね?」

「そだね。来れればいいなー」

「いいなじゃなくて行くの!」

「はいはい」



そこまでして来たいのかと笑って陽菜を見れば、ふと目があってニッコリと笑う。


陽菜の深くかぶってる帽子がちょっと邪魔だけど、あたしはソッとキスをした。




「わ、ここ外だよ!?」

「誰も見てないよ」

「パパラッチいるかもよ!?」

「いるわけないやろ(笑)」



こんなにくだらない話も何もかもが楽しくて、毎日この幸せが続くとそう思ってた。




―――――――――



1人で来る海って


こんなにも寂しいんだね。





End

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