遥か

□朝明けの願い
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静かな夜。
静寂な夜。

私は眠れずにいた。


「神子、そこで何をしてる。眠らないのか」


藤姫家の縁側で一人ぼんやりと空を見つめている私のところに、落ち着いた口調でそんな言葉が聞こえた。

「泰明さん?」

「あぁ。私だが…どうしたのだ、神子」


姿は見えない泰明さんの声。
近くを見渡すと、私の座っている隣に小さなネズミが一匹。


「泰明さん、またネズミになってきてくれたんですか?」


そっと手の上にネズミを掬う。
確かに温もりはあって、少しの安堵感が得られる。


「神子…気が不安定になっている。大事ないのか?」

「うーんと…少し寂しい、かな」

「さみしい…?」

「眠っちゃえばいいんだろうけどね。」

「眠れぬのか」

「ぅん」


“寂しい”
そう口にした途端、一人でいる今の現状に怖ささえ感じてしまった。

泰明さんは沈黙したまま、何も話さずじまい。


「ぁ、泰明さん」


手の上のネズミは、術が解けたようにどこかへ行ってしまった。
あれは泰明さんではなく、そう呼んでしまった自分に馬鹿だなぁなんて、内心思ったりする。



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