遥か
□朝明けの願い
1ページ/3ページ
静かな夜。
静寂な夜。
私は眠れずにいた。
「神子、そこで何をしてる。眠らないのか」
藤姫家の縁側で一人ぼんやりと空を見つめている私のところに、落ち着いた口調でそんな言葉が聞こえた。
「泰明さん?」
「あぁ。私だが…どうしたのだ、神子」
姿は見えない泰明さんの声。
近くを見渡すと、私の座っている隣に小さなネズミが一匹。
「泰明さん、またネズミになってきてくれたんですか?」
そっと手の上にネズミを掬う。
確かに温もりはあって、少しの安堵感が得られる。
「神子…気が不安定になっている。大事ないのか?」
「うーんと…少し寂しい、かな」
「さみしい…?」
「眠っちゃえばいいんだろうけどね。」
「眠れぬのか」
「ぅん」
“寂しい”
そう口にした途端、一人でいる今の現状に怖ささえ感じてしまった。
泰明さんは沈黙したまま、何も話さずじまい。
「ぁ、泰明さん」
手の上のネズミは、術が解けたようにどこかへ行ってしまった。
あれは泰明さんではなく、そう呼んでしまった自分に馬鹿だなぁなんて、内心思ったりする。
。