蜜雨
□08:眠れたら
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「もう終いか?それでよく新選組の隊長が務まるものだな」
苦しそうに、だが、悔しそうに睨みつける総司の視線は私が見ても怖いもので
それを簡単に見つめ返せる敵に計り知れない強さを感じた
私は必死で知識の少ない脳内を駆け巡らせ、打開策を打ち出そうとしたその時
──ゴホッ
嫌な音がした
…それも、かなり近くで
振り返ると
「っ総司!!!」
畳にはたくさんの血
彼の口の周りにも血がたくさんある
…吐血、したのか?
ぜぇぜぇと呼吸しながら総司は私にも敵と同じくらいの殺気を放った
まるで、近付くな、とでも言うように…
でも私が伸ばした手を払う彼の力で悟った…
彼はもう、限界なのではないか、と
「この俺に背中を向けるとはいい度胸だな…女、名乗れ」
私はゆっくり振り返った
相手はすでに私の男装を見破り、総司の時と同じように赤い瞳で睨む
いや、睨むよりも嘲る、だろうか
そして男は言葉を続けた
「女が男の盾になるとは…
滑稽すぎて同情すら覚える」
─女が男の盾になる……?
それは私が総司の盾になるということか
…確かに世間からすれば滑稽かもしれない
だがそんなことを思ってたら仲間を助けることなんて出来るはずがない
「女だとか、男だとか、関係ない」
それ以前に私たちは仲間であって仲間が危ないなら迷わず手を差しのべる
たとえ救えなかったとしても、見捨てて自分だけ生き延びることの方こそ、私は滑稽だと思った
「助けたい奴がいるから助ける
私は総司の盾として前に出るんじゃない
お前を倒すから前に出ただけだ」
…なんて、かっこいいこと言ってみたけど
本当に倒すだなんて思っちゃいない
一階にいる近藤さんやはじめが来るまでの少しの間、少しの間だけなら時間を稼げることも体力を削ることも出来るかもしれない
…私は、ゆらり、と刀を構えた
藤からいただいたこの刀
先程の戦闘で血まみれになっている
その経験がまた私を強くした
「…返り討ちにしてやろう」
「やれるもんならやってみろ」
そう言って私と彼は刀を交えた
必死な顔した私とあくまで楽しんでいるだけの彼、力の差ははっきりしていて自分の刀を持つ手のひらが震えた
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