ごった煮

□優しい時間
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―鈴虫が優しく鳴り響き秋の季節を告げる頃


斎藤は屯所の縁側で一人で月見酒をしていた

何か考え事があって
眠れないわけではないのだが
ただ、なんとなくそうしたかったのだ


「……斎藤さん?」


…名だ

最近、互いの想いが伝わり
目を合わすのも慣れてきた相手だ

静かに隣に座ってくる彼女に
酒をすすめてみると素直に受け取ってくれた


「月、綺麗ですね」


「あぁ」


会話はそれこそないものの
決して居心地が悪くないと思っているのは
名もそうだと思うし
俺も名だからこそ思うのだった

最近は仕事も多くなり
こうして酒を飲むことも、そして
名と一緒にいられることも
少なくなってしまった

―彼女はこのことをどう思うのか

女とは慕う男とは常に寄り添うことで
幸せが満たされる、と考える俺にとって

何も言わない名は俺を困惑させた

―このことを言うべきか、否か


先手は名だった


「……斎藤さん、聞いてくれますか?」


「…?…なんだ?」


やはり彼女も辛かったのだろうか
静かに待っていると
うつむいて顔がよく見えない名は言った


「…私、斎藤さんが大好きです」


「!!!」






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