蜜雨
□01:聴かせて
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─静まり返る道場
そこの中央にたたずむのは
この物語の中枢である片桐緋那と
黒い服を纏う男、斎藤であった
「………」
「………」
両者、呼吸さえわずらわしいほどに
決して微動だにせず相手の動きを待つ
─と、彼女がすばやく斎藤に攻撃する
「………」
─が、斎藤の目にはその動きは
捕らえられていたようで、驚くことなく
さも当たり前のように避けられる
「くっ!!…うりゃあっ!!」
「…甘い」
「おっうわっ!!!」
斎藤の竹刀は避けきれたものの
次の動きに体がついてこれず
緋那は足を滑らせる
そのまま尻餅をついてしまった
…また、負けた…
たまたまそれを見ていた局長は
斎藤相手によくやった、などと
励ましてくれたが、納得いかない
「…緋那」
すると斎藤が眉間に皺を寄せて話しかけてくる
「ん?なんだよ斎藤」
心の中であっかんべーをしながら
斎藤の次の言葉を待つ
「…男装しているあんたは女だ。
試合中変な声を出すな」
「…しょうがないじゃん、出ちゃうんだから」
「そうだな、せめて
黙ってくれた方がありがたいんだがな」
「なっ!!左之まで言うか!!」
「少なくとも俺以外でそう思うやつがいる
改善した方がいいだろう」
「………」
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