中編

□D
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「見て、ヘルガ。もう菊花寝ちゃったわ。貴方ってとても歌が上手なのね」
「そんな事!お母さんに抱かれて安心して眠ってるだけよ、ロウェナ」
「それにしても菊花はロウェナに似たよな。美人で良かった良かった」
「ゴドリック、想いが上手く行かなかったからって生徒に手を出す事は私がさせないわ」
「ヘルガ、馬鹿な事を言うなよ!」
「ああ、静かにして。菊花が起きちゃう」

冷たかっただけのあの家も。
もしかしたら私が気づかなかっただけで。

「ああ、私の可愛い菊花…」

もっと違う、何かがあったのかもしれない。

今更気づくなんて。
いや、気づいてなんていない。
ただの憶測。妄想、幻影、願望。

だけど、だけど、もっと早く、早ければ。
仮定なんて無意味だけれどそうせずにはいられなくて。
それが余計に未練となってこの薄っぺらの体を縛り付ける。

「トム。卒業おめでとう」
あまり浮かない顔の彼は今日も私の傍に来た。
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