中編

□に
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「…君の名前は?」
よく思い出して考えれば。
彼女の綺麗な青い瞳はあの女性と同じだ。

「名乗る必要は無いわ。今夜貴方に殺されるんだもの」
「…殺してあげるだなんて言った覚えはないよ」
「でも、さっきの話を聞いて殺す必要が出来たと思わない?」
「…少しも。これっぽちも思わない。だから名前を教えて」

全く進まない会話に苛立ったのか彼女は懐から短剣を取り出した。
装飾のある小さな短剣を鞘から抜いて僕に切っ先を向けた。

「私は貴方を殺すかもしれない。この銀色に光る刃を貴方に突き立てるかもしれない。
その白い胸に突き立てて赤い血が噴出して貴方が苦しむのをただ見つめているかもしれないわ」
短剣の切っ先が近づく。
尖ったその先が黒いローブに押し付けられた。
どくどくと未だにうるさく響く心臓のある部分だ。

「…正当防衛なんでしょ?」
恐ろしいほど美しい、恐ろしくて美しいその瞳が僕を見上げていた。

「名前を教えて」
僕の変わらない態度に苛立ったのか彼女は短剣を強く握った。
そしてそれがローブを破く。少しだけ皮膚に触れた。
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